第1話 席替え
待ちに待ったこの日が遂にやってきた。
入学から2か月。今日は初めての席替えの日。
教室の中はワイワイと賑やかなお喋りが咲いており、皆一様にそわそわしている。
詞幸もまた、期待と緊張が入り混じった表情で、ティッシュ箱を流用したクジを引いていた。
「お、これはなかなかの好ポジション」
その席は窓際の後ろから2番目。先生の目が届きにくく、外の景色も眺められる人気の場所だ。しかし詞幸が求めてるのはそんなものじゃない。
新たな自分の席に着きながら、心の中で一心不乱に祈り続けていた。
(来い、来い来い来い来い来い来い来い! 席替えの神様、頼む、俺の願いを聞いてくれ!)
「えーと? アタシの席はここか?」
(キタ――――――――(゜∀゜)――――――――ッ!!」)
彼の後ろに座ったのは栗毛をツーサードアップで纏めた少女だった。
その体躯は高校生のものとは思えぬほど小さく、知らぬ者は誰もがこの少女のことを小学生だと勘違いするだろう。
そんな彼女が腰を下ろすや、詞幸はすぐに後ろを向いて輝く瞳で挨拶した。
「小鳥遊さん、これからよろしくね!」
しかし少女はそれにさしたる反応を見せず、背筋を伸ばしたり体を傾けたりしては眉間に皺を寄せて黒板を睨んでいた。
「んー? さすがに一番後ろでは見えんな。せんせーっ! アタシを前の席にして――」
「はい先生! 俺ちょっと席ずらすから大丈夫です! 前に移動する必要ありません!」
ピンとした挙手と共にいきなり割って入ってきたクラスメイトに小鳥遊は渋面を作った。
「いや、席ずらしてもお前の位置じゃ関係ないから」
「た、たたた小鳥遊さん! そんなこと言ったら前の方の席になっちゃうよっ?」
冷や汗を垂らして狼狽する詞幸に、頬杖をついて投げやりに答える瞳は冷ややかだ。
「いやいや、だからその方がいいんだよ。お前バカなのか?」
「そうだ、小鳥遊さんの席を横にずらせばいいんだよ!」
「どっちにしろこの背じゃ高さが足りなくて黒板が見えん」
「じゃあわかった! 俺がクッション持ってくるよ! で、その上に座ればきっと、いや絶対見えるよ! 席はそのままで問題ない!」
暑苦しいまでの勢いで行われる主張に、小鳥遊はげんなりとして溜め息をついた。
「もういい……。お前鬱陶しいから、このままで我慢する…………」
「やった! これからよろしくね、小鳥遊さん!」
その満面の笑顔を見て、当事者を除く教室内の全員がこう思った。
(わかりやすいヤツ……)