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第190話 勉強会ファイナル③

 勉強会という名目で集まったため、遊んでばかりというのもバツが悪かったのだろうし、詞幸(ふみゆき)の母という監視の目もあったからだろう。彼らは一応、勉強と宿題に取り組んだ。

 しかしそれも僅かな時間のことで、まるで自分に『短時間でも勉強はやったんだから少しくらい遊んでもいいよね』という言い訳をするために、とりあえず体裁だけ整えているようであった。

 いまは勉強の小休止ということで、複数人でできる対戦ゲームをしている。

(小休止どころか大休止になるのだろうがな)

 織歌(おるか)は素早くスティックとボタンを操作しながら、心中で軽く悪態をついた。

 元からそのつもりだったのだろう、用意のいいことに、愛音(あいね)はコントローラーを複数持参していた。詞幸が元から持っているコントローラーと合わせれば、全員に行き渡る数であった。

 織歌としてはガッツリ勉強する目的てやって来たので、この状況は不本意でならない。

 彼氏と過ごす時間を削ってここに来ているのであって、どうせ遊ぶのなら、夏休みの前半を相手の部活とそれに起因する喧嘩で潰してしまった彼氏と一緒がいい、というのが本音だ。

 しかしそこは《冷静かつ空気の読める女》を自認(自称)している織歌である。友人たちとの遊興に水を差すような真似はしないし、いまさら言っても詮無いことと割り切り、得難い友人たちとの時間を楽しもうとしていた。

 しかし、それとはまったく別に、彼女には気になることがあった。

月見里(やまなし)……わたしはお前のことが気がかりでならない)

 織歌は詞幸のことをこの夏の間ずっと、《わざと草食系優男を演じることで女性陣のガードを崩し、おいしい思いをしようとしている卑劣漢》なのではないか、と疑っていたのだ。

 結論から言えば、それは勘違いであったと織歌はいらぬ嫌疑をかけた己を恥じている。

 なぜそう結論付けたかというと――

 彼女は少女たちの中心で声を上げる唯一の男子部員に目をやった。

「あっ、上ノ宮(かみのみや)さん駄目だよいまのは! ガーキャンして上スマ振らないと! 愛音さんは大技振りすぎて隙が大きいよ! ほら、こんな感じですぐ狩れちゃう! 俺からしたら格好の的だよ! あとこれは全員に言えることなんだけど復帰阻止は積極的に狙っていかないと! 単に吹っ飛ばすだけじゃ勝てないよ! あ、帯刀(たてわき)さんのキャラは空前の発動が早いからバンバン使っていくといいと思うよ! え? やり方がわからない? いや普通にスティック前に倒しながらA――ちがうよそれは空下! 空下はメテオ効果あるけど硬直が、ああっ! 愛音さん、だから隙が大きいって! ああっ、ほら言わんこっちゃない!」

「あ゛ーーーーーーーーーーーーー!! お前ウザいぞ、ふーみん!!! いちいちゴチャゴチャ騒ぐんじゃない!!!!」

「私このゲーム初めてなんだよ!? 初心者に難しいこと言わないで!!! 自分の思い通りにいかないからって相手を責めるのはよくないと思うよ!!!」

「そうですまさにそのとおりです!! 相手が自分の土俵に上がってきたからといって、上級者ぶって上から目線でいい気になるのはいただけません!! 詞幸くんのクセに!!!」

 女子たちからの厳しい痛罵を浴びて詞幸は狼狽える。

「そ、そんな……俺はみんなのためを思って――」

「人のせいにする気なの!!? 月見里くんがそんな最低な人だなんて私思ってなかった!!!」

「わたくし詞幸くんのこと嫌いです!!! 同じ空気を吸っていると思うとそれだけで腹立たしい!!!」

「そーだそーだ!! 息するのやめてとっととくたばれー!!!」

「あんたなんか生まれてきたのが間違いだわ、このバカ息子!!!」

「母さんまで!!?」

 織歌は自分が疑っていたことを恥じた。恥じたうえで憐れんでいた。

(こんなにも空気を読めずに大顰蹙(ひんしゅく)を買うようなやつが演技してるわけないしな……。ああ、それにしても惨い光景だ。たかが息抜きのゲームでこんなことになるとは…………。これまで積み上げてきた好感度が崩れていないといいが…………)

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