第18話 ようこそ話術部へ
特別教室棟4階。その奥から2番目に話術部の部室はあった。
1番奥の部屋は物置きとして使われている空き教室のため、実質的にここが最も外れに位置する部室ということになる。
「ようこそ、我が話術部へ!」
愛音は短い腕に目いっぱい力を込め、勢いよく部室のスライドドアを引いた。
季詠に目で促され、詞幸はドアをくぐる。
「お、おじゃましまあす」
「――あら、お客さまですか?」
恐る恐る足を踏み入れると柔和な声に出迎えられた。
室内の照明は点いていなかったが、カーテン越しに窓から差し込む午後の日射しで、淡い光に満ちていた。
少女は部屋の中央に据えられたテーブルで読書をしていたらしい。白いブックカバーをかけた文庫本に栞を挟み、ゆっくりと立ち上がる。
その優美な姿に見とれていた詞幸の横から、愛音がにゅっと顔を出して手を挙げた。
「おっす、ミミ。こいつはクラスメイトのふーみん。体験入部したいって言うから連れてきてやったぞ」
「まあ、それは素晴らしいですね」
ミミと呼ばれた少女は胸の前で両手を合わせて喜色を表した。
彼女は、サイドで緩く纏めた髪を肩から前に流し、所作もたおやかで大人びた雰囲気を漂わせている。詞幸は一瞬先輩かと思ったが、胸のリボンの色から同じ1年生であると確認して目を見張った。
「初めまして。話術部部長の上ノ宮御言と申します。わからないことがあったらなんでも聞いてくださいね」
僅かに開いた窓の隙間から風が舞い込む。御言のもとを通って、ふわりと甘い香りを届けた。
(綺麗な人だなーー)
詞幸はやや緊張した面持ちで挨拶を返す。
「1年B組の月見里詞幸です。あの……俺、勢いでいきなり来ちゃったんだけど、邪魔じゃなかった?」
「うふふ、そんなことありませんよ。大歓迎です」
御言は目を細めて笑みを零す。
「おもちゃはたくさんあった方が愉しいですから」
「――――――え?」
「いけない、わたくしったらつい。お気になさらないでくださいね」
口元を押さえてころころと笑う。
指間から漏れた愉快そうな声が部室に響いた。
「うふふふふふふふふふふふっ」