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第187話 お姉ぇがなんか変④

(またお姉ぇがおかしい)

 香乃(かの)はここ最近頻繁に感じていることを改めて思った。

 昨日、花火大会に行ったことは知っている。帰りが遅かったため昨夜帰ってきたときの様子は知らないのだが、今日は朝から様子がおかしかった。

 朝はごはんも食べず部屋にこもっていた。体調不良というわけでもないらしく、気にはなったものの香乃は遊びに出かけたのだ。

 しかし、帰ってきても姉の不調は治っておらず、

「……………………」

 ただただ自室で終始ボーっとしていた。

 それが単純に怠けているだけならまだいいのだが、微動だにせず、一言も発さず、ただベッドに仰向けになって天井を見つめているのだ。

 相部屋の身としては気味が悪い。

(もしかして死んでる……?)

 そう思って注視すると、胸が上下し、まばたきもしているので辛うじて生きているとわかるものの、その姿は石棺の中のミイラのようだった。

 まさに生ける屍である。

(これ絶対昨日なんかあったな……)

 近頃姉がご執心の『フミユキ』(漢字は知らない)という人物絡みであることは明白だった。

(やっぱフラれたのかな)

 妹として、ここは姉を気遣うべきだろう。

「ねぇねぇ、お姉ぇ。まさか超絶可愛くて気配りもできる完璧美少女のお姉ぇに限ってそんなことないとは思うんだけどさぁ…………昨日告ってフラれたのぉ?」

 だが香乃は『べき』などという常識を無視する存在だった。

 地雷を踏もうが構わない。というより、ほかの誰かに踏まれる前に率先して地雷を踏んでやりたい。

 いまの言葉もすでに若干の嘲りを含んでいた。

「……………………」

 と、ここでようやく詩乃が動いた。ギギギ……、と音がしそうなほどの緩慢さで首だけが香乃を向く。

「フラレテナイ」

 言葉に魂が籠っていなかった。

 両の目も焦点が合っていないようで、やはり屍じみている。

「でも告りはしたんでしょ?」

「……コクッテナイ」

 若干の間があった。

 どうやら上手くはぐらかす余裕もないらしい。

(告白の返事を保留にされた? もしくはちゃんと告れなかったとか告るつもりもないのにポロッと口走っちゃったとか…………って、それはないか。お姉ぇに限ってそんな恋愛ド素人みたいなこと)

 であれば、やはり返事を保留にされたのだろう。こと恋愛に関しては用意周到で用心深い姉が勝算もない賭けに出るとは思えない。

(絶対OK出ると思ってたのに保留にされたからショック受けてる――そんなカンジかな?)

 この姉は自己評価が非常に高く、自分は男から選ばれるのではなく、自分自身が男を選ぶ方の立場にあると思っている(ふし)がある。

 そんな人間にとって告白の保留は実質負けのようなものだろう。

(あぁ……可哀想なお姉ぇ……)

 香乃はそう結論づけ、一人密かに同情していた。

 実際にはそんなことはなく、詩乃(しの)は数時間悶え続けた結果疲れ果てて気力を失っているだけである。

 しかし香乃が姉の心のうちなど知る(よし)もない。ただ妹の立場として、いまかけるべき最善の言葉を選ぶだけだった。

「安心してお姉ぇ。もしお姉ぇが失恋しても、あたしが若い魅力でその人を篭絡して家に連れてきてあげるから。お姉ぇにもおこぼれでちょっとくらいいい思いさせてあげる。3Pとか」

「………………」

 すると、これまで屍のようだった詩乃の顔に血の気が戻ってきて――戻りすぎて真っ赤だが――ゆっくりと体を起こしたのだ。

「香ぁ~~~~乃ぉ~~~~~~~~~……!」

 その遠雷の様な低い声には怒りが満ち満ちていて、永い眠りから復活した魔王が怨嗟の叫びを上げているかのようであった。

「さっきから黙って聞いてりゃ遠慮なくズケズケとぉ~~~~~~ッ!! その腐った性根、力ずくで叩き治してやるから覚悟しなさいッ!!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!! お姉ぇがキレたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ――ぶっ!」

 枕を顔面に喰らいながら、やっぱりお姉ぇはこうでなくっちゃ、と香乃は思うのだった。

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