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第182話 夏の夜空に咲く花は⑮ くいこみ

「ばいばーーーーーーーーーーい!!」

「「ばいばーい!」」

 元気いっぱい跳びはねて手を振る女の子と、彼女の手をしっかりと握って深々と頭を下げる母親に笑顔で手を振り返す。

「いやあー、よかったね。みんな無事お父さんお母さんが迎えに来てくれて」

 詞幸(ふみゆき)たちは保護者が来るまで迷子センターで幼稚園児たちに付き添っていたのだが、それがようやっと終わったのだ。

「ね。あのコたちのおかげでちょうどいい時間になったんじゃない? ほら」

 詩乃(しの)がスマホの液晶画面を向けると、花火の打ち上げまであと2,3分というところだった。

 開始までには間に合わないだろうが、花火は祭りのメインイベントであり、打ち上げ自体は1時間以上行われる。多少遅れても十分楽しめるはずだ。

 ここからで見えるはずだが、よりよい観覧場所である土手に向かって二人は再び歩み始めた。

「それにしても縫谷(ぬいや)さんって意外と子供の扱いに慣れてるんだね」

「なに『意外と』って。メッチャ失礼なんだけど」

 下唇を押し上げて睨んでくる。

「あわわわ、そういう意味じゃなくてっ……俺は全然、縫谷さんのこと子供嫌ってそうとかあやしてるつもりでも逆に泣かしちゃいそうとか、そんなことは全っ然思ってなかったよっ?」

「誤魔化しかた下手すぎない?」

 詩乃は嘆息した。

「ナッシーからも『お前は将来子供置き去りにしてパチンコに出かけるシングルマザーになるぞ。命を懸けてもいい』って言われたことあるけど」

「それは酷い」

「ウチは別に子供嫌いじゃないよ。無邪気で可愛いじゃん。妹がいるから子守りも慣れてるし」

「ふうん、そうだったんだ。ごめんね、失礼なこと言って。なんだか、いいお母さんになりそうな雰囲気だったよ」

「…………あんがと。でもそれを言うなら、アンタもいいお父さんになりそう」

 予想外な褒め言葉に照れてしまい、その返しとしてつい口走ってしまった。

(ヤバッ!! ウチなに言っちゃってんの!?)

 どう受け取られるかわからない発言。詩乃は動揺を気取られぬようにして軌道修正を図る。

「――幼女限定のいいお父さんだけどね! 女の子ばっか見つけて……ホント詞幸ってばロリコン。女たらし」

「また言ってる………………。あ、そうか」

「ん? なに?」

 なにを納得したのだろう、と思って聞くと、彼は目を泳がせた。

「いやなんでも………………」

「なにそれ。言いたいことがあんなら言いなさいよ。怒らないから」

「その……」

 低い声で威圧されると、詞幸はビクビクしながらも口を開いた。

「縫谷さんとしては女の子よりも男の子ばっかりの方がよかったのかなあって……」

「きゃはははっ、なにそれっ、アンタ面白いこと言うじゃんっ! きゃはははっ!」

 にこやかな笑顔の裏に静かな殺意を感じた。

「なんでそんな発想に至ったか言ってみ?」

 詞幸としてはもう笑って誤魔化すほかない。

「いやあ、ははは……」

「あ、そうだ。すっかり忘れてたけどもっかい手ぇ繋がない? もち恋人繋ぎで♪」

 詩乃が手をわきわきと動かす。

 ジェルネイルでペールピンクに彩られた爪が、ギラリと妖しく光って見えた。

「い、いや……いいよ……恥ずかしいし……」

「まぁまぁ、そんな遠慮しないでさぁ~!」

「いっ、ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 手の甲に生まれた幾つもの爪痕のように、『怒らないから』を信用してはならないと心に刻む詞幸だった。

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