第180話 夏の夜空に咲く花は⑬ 迷子
「あれ? あの子迷子じゃない?」
詩乃と手を繋いだまま、詞幸は空いている方の手で前方を指差す。
見れば、幼稚園児くらいの女の子が立ち止まってあたりをキョロキョロしていた。
「アンタってホンっト小さい女の子のことよく見てるよねぇ」
先月商業施設で女の子の母親を探してあげていたことを思い出し、詩乃は吐き捨てる。
「このロリコン……っ」
「事実無根の酷い言いがかりだなあ」
「事実有根でしょ? だってアンタの好きなナッシーだってこんくらいちっさいじゃん」
「そんなには小さくはないよっ。せいぜい小学校3、4年生くらいだよっ」
「世間一般ではそれでも十分ロリコンなんですけどぉ」
言い合いながら、二人は女の子の前で揃って腰を屈めた。
「ねぇねぇ、どうしたの?」
詩乃は普段にないような優しい声音で柔らかな笑顔を作る。
すると女の子はきょとんとしながらも簡潔に状況を述べた。
「リカのママがまいごになっちゃったの!」
「そっかぁ、リカちゃんのママの方が迷子になっちゃったんだぁ」
「だからさがしてあげてたの!」
「うんうん、リカちゃんは偉いねぇ」
詩乃が話を聞いている合間に詞幸はスマホを操作して目的のページに辿り着いた。
「あった。ここから進んだところに迷子センターがあるみたい。ちょっと遠いけど」
「わかった」
短く頷き、女の子に向き直る。
「じゃあリカちゃん。お姉ちゃんたちが一緒にママを探してあげる。だから一緒に行こっか」
「ほんとっ? ありがとっ!」
女の子は詩乃のことを信頼したようで、彼女が手を引いて進んでいくこととなった。
「あれ?」
未就学児の歩幅に合わせたゆったりとした歩みのなか、再び詞幸が声を上げる。
「あの子も迷子じゃないかな……」
「ホンっトにアンタは……一人も二人も変わんないから助けてあげましょう?」
感心半分呆れ半分、二人目の女の子に駆け寄る詞幸の背中を、詩乃は肩を落として眺めた。
詩乃と詞幸、それぞれに小さな女の子の手を引いてしばらく歩くと、
「あっ、あの女の子、一人で泣いてる……」
「なんなのアンタ! ロリコンの神様に愛されてるの!?」
またも幼稚園児と思しき女の子の保護に向かう詞幸に、詩乃は感心も呆れもとおり越したパニック状態になった。
「なに言ってるのさ。迷子がいたら保護するのは当然だよ」
3人目の女の子の涙をハンカチで拭い、落ち着かせながら言う。
「家族で夏祭りに来てせっかく楽しい思い出になるはずだったのに、一人ぼっちの不安な思い出しか残らなかったら可哀想だよ」
「いや、完璧に正論だしアンタの優しさはよぉくわかったんだけど、それにしても3連続で女の子って……」
商業施設での件も含めれば4連続だ。
「いやあ、実はプールのときも迷子の女の子を二人見つけてさ」
「6連続じゃん!!」
「うう~ん、確かに……高校上がる前を合わせても男の子の迷子は見たことないから、そう考えると不思議だねえ。はははっ」
軽く笑って返されたが、詩乃はまったく腑に落ちなかった。
「アンタ絶対ロリレーダーとか幼女センサーとかヤバいスキル持ってるでしょ…………」