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第177話 夏の夜空に咲く花は⑩ 幸せの共有

「まー冗談はさておき、ふーみんにおんぶしてもらう以外の方法はないだろ。アタシがいかにロリロリ体型とはいえ女で背負うには重いだろうし、なにより折角着付けてきた浴衣が乱れるぞ?」

「ぐっ、確かに……」

 理路整然と説明され、詩乃(しの)はもう口を挟まなかった。

「ってことでふーみん、しゃがんでくれ」

「はい!」

 詞幸(ふみゆき)は威勢よく、また嬉々として愛音(あいね)に背を向けてしゃがんだ。

(わざわい)転じて福となす――鼻緒が切れたのが凶兆だなんてとんでもない! 俺にとっては吉兆だよ! あああああ愛音さんと密着しちゃううううううう!)

「よいしょ――っと」

(ふおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! いま俺の背中に愛音さんの、お、おっぱいが……っ!)

「………………」

 感じなかった。ビックリするくらいなにも感じなかった。

 愛音はああ言っていたが、それでも少しくらいは柔らかさを感じると、そう思っていたのだ。

 しかし考えてみれば、詞幸は愛音の胸がどれくらいの大きさなのか――小ささなのか直に生で見たことがあるのだ。期待したところで無駄なのは明々白々である。

 しかしそんなことは些細なことで。

 邪な気持ちはすぐに彼の頭から抜け落ちてしまった。

「おー、高い高い! わははっ、お前の背中意外と大きいんだなー!」

 ゆっくり立ち上がると、愛音は首に腕を回してギュゥっとしがみついてきた。

 歓声とともに耳の後ろにあたる吐息がくすぐったい。

「どう? 乗り心地は」

「ああ、最高だぞ! よーし、このまま進め陸戦型ふーみん!」

「よおし、行くよお!」

 彼は背中に感じる小さなぬくもりで胸がいっぱいだった。

 おんぶして歩く、ただそれだけ。それだけのことがなぜこんなにも楽しいのだろうか。

 ――これが恋だから。

 自分で出した問いに自分で答える。

 ――好きな人と過ごす時間だからだ。

 弾むように笑い合う声。

 信頼されているという嬉しさ。

 同じ高さで景色を共有する喜び。

 互いの体温を分かち合う安らぎ。

 さっきの自分と変わっていないのに。さっきから世界はそのままなのに。

 さっきと感じるものがまるで違う。

 これこそが幸せということなのだろう。

 こんな時間が永遠に続けばいいとすら思える。

 愛しい一瞬が続いていく。

「あっ、白髪――おりゃー!」

 ブチィッ!

「ぎぃぇッ!」

 鋭い痛みに詞幸の頭がガクンと後ろに倒れる。次の瞬間、

 ゴツッ!

 鈍い音。詞幸と愛音の頭がぶつかったのだ。

「あだ――っ!!?」「いったーーーーーーーーッ!!!」

 頭を押さえて悶絶する二人。

 彼らは痛みすら共有してしまったのだった。

「やはり凶兆でしたね……」

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