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第175話 夏の夜空に咲く花は⑧ 好きな色は?

月見里(やまなし)くんも浴衣着てくればよかったのに」

 季詠(きよみ)詞幸(ふみゆき)の頭のてっぺんからつま先まで見て言う。

 彼の服装はTシャツにパーカー、ジーンズという極めてありきたりなものだった。

「いやあ、ちょっと考えたんだけど防御力の低さが気になって……」

「なにそのRPGみたいな表現……」

「女の子はスカートで慣れてるかもしれないけど、あのスースーする感じが心もとなくてどうも……それにほら、浴衣ってはだけるじゃない?」

「えぇっ、それがいいんじゃん。男の子のたくましい胸板がチラッと見えるとキュンとしちゃうんだけど。ききっぺもそうっしょ?」

「そんなことないよ!? 私はぜっんぜん微塵もそんなこと思わない!!」

「え、なんでそんなキレ気味に否定すんの……?」

 ムキになるところが逆に怪しかったが、ただならぬ気配に詩乃(しの)はそれ以上の追及をやめた。

「まーなんにせよ、ふーみんの格好は祭りっぽさもなくて守りに入ったつまらんファッションってことだ。浴衣でキメてきたアタシらの中じゃめちゃんこ浮いてるぞ? 場の空気を乱しすぎだって理由でツイッターに晒されて殺害予告されるレベルだ」

「そんなことで殺害予告する人なんていないよ!」

「いや、いるな。アタシだ」

「この格好のどこが逆鱗に触れたの!? こんなことで犯罪者にならないで!」

「まーまー、落ち着け安心しろ。そんなダサいお前もすぐ祭り仕様にしてやろう」

 自信たっぷりに言う愛音(あいね)に導かれてやってきたのはお面の屋台だった。

「そうか。お面ってお祭りのときしか見かけないもんね。確かにこれがあればお祭り仕様だよ」

「にひひ、そうだろ? なーなー、みんなでお面をつけて祭りを回らないか?」

「いいですね。では、どうせなら同じ種類のものを選びませんか? みんなでお揃いの物を身につけることに憧れていたのです」

 御言(みこと)が愛音に同調し季詠もどこか嬉しそうに頷く。しかし詩乃だけは渋面を作って反論した。

「えぇ~? 高校生でお面とかダサいしバカっぽくなぁい?」

「おいおい、なにかを楽しむってのはある意味バカにならないと始まらないんだぞ? お前だって運動会のとき大声で応援したり、コンサートでタオル振り回したり、バカになって恥ずかしげもなく騒いだ経験があるだろ? 恥を捨てることで初めて人は素直に感情を表すことができるんだ」

「うっ、なんかそう言われるとナッシーが正しいような気がしてきた……。まぁここでウチだけ買わないのもノリが悪いし」

 そう言うといくつも並ぶお面を真剣に眺め始めた。

「プリキュアならキョミはやっぱ青キュアだよなー。知性と美しさを備えたクールビューティー!」

「青キュア? 名前に色がついているのですか?」

 御言が首を傾げると、待ってましたとばかりに季詠が解説を始める。

「ううん、ファンが作ったカテゴリーみたいなものなの。毎年新しい作品を放送して違うキャラクターが出てくるんだけど、キャラクターごとの性格とか役割ごとにイメージカラーがだいたい決まってるの。主人公ならピンクキュア、活発だったり仕草が可愛い子は黄キュア、とか」

「ふむふむ。それなら、わたくしのように純真無垢で純白が似合うキャラクターはいませんか?」

「え――?」

「なにか?」

 つい疑問の声を上げてしまった詞幸に御言が笑顔を向ける。目はまるで笑っていないが。

「いえ、なんでも……」

 とても「黒の方が似合うんじゃない?」と言える雰囲気ではなかった。

「うーん、白キュアはねぇ、最近の作品にはあんまり出てきてないの。どのプリキュアも強化フォームで羽とかヴェールを身につけることが多いから、白だと差別化できなくて。代わりに、御言なら紫キュアが似合うんじゃないかな? 大人っぽくて気品のある子の色だから」

「まぁっ、ではそれにいたします」

「じゃー、ふーみんのはアタシが選んでやろう。って言っても淫獣のお面確定だけどな!」

「淫獣!? なにそれ!」

「マスコットキャラのことをなぜかネットスラングでそう言うらしいの……」

「プールのとき《淫獣形態セクシャル・ビースト・モード》になってたふーみんにはピッタリだろ。で、アタシは――」

 言いながらお目当ての品に手を伸ばす。

「やっぱりピンクキュアかな」「ウチはピンクのにしよっかな」

 愛音と詩乃、二人の声が重なった。

「はー……しののん、色被りはダメだろ。お前はあざとイエローにしとけ」

「はぁ? ウチピンク色好きだからピンクがいいんだけど」

 愛音は濃い色、詩乃は淡い色、という違いはあれど二人の好きな色はどちらもピンクだ。

「アタシだってこれがいい。そもそもお前が好きなのはピンク色じゃなくてピンク系だろ?」

「? 確かにピンク系は好きだけど……」

 詩乃は「それって同じ意味じゃない?」と首を捻る。愛音はここでニヤリと笑った。

「そうかそうか、ピンク系が好きか。例えば、将来ピンク系の店で働きたいと思ったり?」

「?? まぁバイトするなら可愛いお店がいいからピンク系の内装の方がいいけど……」

「ハッキリ答えろ! つまりピンク系で働きたいんだなっ?」

「あ~も~っ、なんなのさっきから変な質問ばっかして! はいはいっ、ウチはピンク系のお店で働きたいです! これでいいっ?」

 高らかに宣言した詩乃はこのあと、『ピンク系』に性的な意味が含まれると教わって悶絶した。

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