第174話 夏の夜空に咲く花は⑦ 面白さの理由
御言と詞幸の射的勝負は2回戦目に突入した。
「御言、リラックスーっ」
「詞幸なんかに負けるな~っ」
残りの面々はその様子を遠巻きに眺めている。
「わはははっ、遊びにムキになるなんてミミもまだまだ子供だよなー!」
「いやアンタが言ってもまるっきり説得力ないわ」
呵々大笑する愛音に詩乃がノータイムでツッコミを入れるのも無理はない。
それは体形面でも体形以外の面でももっともな指摘だった。
愛音は右手に金魚の入った袋、左手にから揚げ入りの紙コップを持ち、その状態でさらに綿あめの袋を左肘に提げ、極めつけには両手首に発光ブレスレットを装着しているのだから満喫具合が窺えよう。
「まんま小学生じゃん。その綿あめもプリキュアのイラストが描いてあるし。まぁメッチャ似合ってるけど」
「ああ、これか?」
左腕を上げて掲げてみせる。
「これはアタシ用じゃなくてキョミのために買ってきてやったんだ。ほらキョミ、プリキュア好きだろ? やるよ」
「あ、愛音! もおっ、秘密にしてって言ったのに!」
「へぇ~、ききっぺってこういうのまだ好きなんだぁ~」
詩乃が口角を上げて嗜虐的に笑うと、季詠は顔を赤くして縮こまってしまった。
しかしそんな状態でも愛音からのプレゼントはしっかり受け取るあたり本当に好きなのだろう。
「おい、しののん! お前いま子供向けアニメだからって馬鹿にしたろ!」
「だって子供向けじゃん。ウチだって小さい頃は見てたけどさぁ、高校生にもなってこんなの見てなにが面白いの?」
「『こんなの』とはなんだ! それは偏見だぞ!」
羞恥心から反論できない季詠の代わりに愛音は詩乃を真正面から見据える。
「確かにアタシもキョミに薦められたときは所詮子供向けと侮っていた。だがな、過去作から最新シリーズまでキョミと一緒に見てその面白さに気づいたんだ!」
「それはナッシーの感性がお子ちゃまと同レべだからっしょ?」
「バカヤロー! いい年こいたオッサンたちが幼女の気持ちになって必死になって作ってんだぞ! 面白いに決まってるだろッ!」
「そっちのが偏見まみれじゃん!」
「小太りで白髪交じりのオッサンたちがキャッキャしながら変身シーンのポーズとセリフを実演して作ってると思うと最高に笑えるだろうがッ!」
「やめてっ! 私の夢を壊さないでっ!」
味方であるはずの愛音に後ろから刺され、季詠は悲鳴交じりに懇願した。