第173話 夏の夜空に咲く花は⑥ 狙い定めて
すでに陽は落ち、空はすっかり夜の色だ。
人々の賑わいと祭囃子のなか、ポンッ、という気の抜けた音とともにコルクの弾が後ろの布を揺らした。
御言はぷくっと頬を膨らませる。
「む~、また外してしまいました。ライフル射撃なら得意なのですけれど……」
「仕方ないよ。本物のライフルとは別物だから」
祭りの射的で使うおもちゃの鉄砲などまともに整備もされていないし、コルク弾も使い古されて劣化している。照準がズレるのは致し方ない。
いかに本物を扱った経験のある御言でも実力を活かしきれないのは当然と言える。
「まさか詞幸くんに負けてしまうとは……」
屋台から離れる詞幸の手には景品としていくつもの駄菓子が。しかし御言の手に戦果はなかった。
「でも仕方ありませんね。恥ずかしいですが、約束どおりこのあと褥を共にしましょう」
「うえっ!?」
「月見里くん、そんなこと賭けてたんだ……」
「噓に決まってるでしょ、引かないでよ! エロ漫画の導入でもそんな雑な展開ないよ!?」
「私にそんなこと言われても……///」
季詠はエロ漫画という単語に恥じらい、俯いてしまった。失言に気づいた詞幸はその矛先を御言に向ける。
「そもそもなんでそんな嘘つくのっ?」
「だって納得いかないのですもの! わたくしが負けるなんて悔しくて悔しくて堪りません! このような形でもせめて意趣返しをしないと気が収まらないのです!」
語気を強めて御言は言う。彼女がこんなにも感情をあらわにするのは珍しかった。
いつも優雅に人より先、人より上を行く彼女には、誰かに劣っている状況というのが許せないのだろう。
「ムカ着火ファイヤーです٩(๑`^´๑)۶༄༅༄༅༄༅༄༅!」
「お、落ち着いて。それもう死語だからっ」
「ああもう、やっぱり負けを認めるなんてプライドが許しません! もう1戦してください! 今度こそ勝ってみせますから!」
彼女の負けず嫌いは相当なものらしく、詞幸の返事を待たず、再度射的の列に並んでしまった。
「またやるのっ?」
「当然、勝つまでやります! お金はわたくしが持ちますからお気になさらず!」
「それはありがたいけど勝つまでって……」
「だからといって手心を加えるのは許しませんから! 手加減したら罰ゲーム、もちろん詞幸くんが負けても罰ゲームで、貴方自身に的になっていただきます!」
「オルタナティブ地獄!」