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第168話 夏の夜空に咲く花は① 透け感

 もう日は傾いてきているが、むしろ祭りはここからが本番。祭り会場の最寄り駅は人で溢れかえっていた。

「こんばんは、詞幸(ふみゆき)くん」

 待ち合わせ場所のモニュメント前に立つ詞幸は名前を呼ばれて顔を上げた。

「あ、上ノ宮(かみのみや)さん」

 遠くから聞こえる祭囃子と喧騒をかき分けるように御言(みこと)がやって来たのだ。

 詞幸と駅前広場の時計を見比べて御言は微笑む。

「わたくしが1番乗りかと思ったのですが、先を越されてしまいましたね」

「電車も混むからね。少しでも空いてるうちにと思って。20分くらい前には来たかなあ」

「まぁっ、随分と早くからいらしたのですね。いやらしいです」

「なにその評価!? 普通は『偉いですね』じゃないの!?」

 会話の流れをぶった切るような言葉のチョイスに面食らってしまう。

「間違ってはいないと思いますが……。早めに来て、往来の浴衣姿の女性をねぶるように眺めていたのでしょう?」

「ねぶるって……俺別に浴衣フェチじゃないんだけど」

「またまた、とぼけないでください。浴衣の生地は薄いのです」

「? そりゃそうだよね」

 御言の言わんとしていることがわからず、詞幸は首を捻る。

「夏に着るものだし、涼しくないといけないでしょ?」

「はい、そのとおりです。あまりにも薄いため、下着が透けて見えてしまうほどに。貴方はそれを目当てでこんなにも早くにやって来たのですよね?」

「人聞きが悪いよ! それじゃあまるで変態――」

「あっ、あそこのお姉さんもパンツが透けていますね」

「え!」

 反射的に振り向き――そうになったところをギリギリ耐えた。

「おお~。引っかかりませんでしたね」

 御言は手を叩いて称賛する。

「ふふん、いつも掌の上で転がされるわけじゃあないよ」

「勝ち誇ったように言いますけれど、パンツに心奪われそうになったことは誤魔化せませんからね?」

「うっ…………このことはみんなには内緒に……」

 彼女らに知れたらどのような罵声を浴びせられるかわかったものではない。

「うふふっ。わたくしだって鬼ではないのですからそのようなことはいたしません」

 コロコロと笑う。

「でも浴衣が薄いのは事実ですよ? 夏なのにこのような長い裾の着物を身に付けるのですから、それ相応の薄さでないと涼を感じられません」

 念押しするような御言の言葉に首肯すると、彼女は、ところで、と口にした。

「わたくしの今日の浴衣はいかがでしょう」

 その場で可憐にクルリと回ってポーズを決める。

 彼女は白を基調とした生地に大輪の朝顔が咲いている浴衣姿だった。襟や帯にはレースがあしらわれている。

 下手に飾らず質素で上品な装いを好む御言にしては珍しく派手だったが、着る者のたおやかさもあって清楚かつ優美にまとまっていた。

「似合っていますか?」

「うん、似合ってる。可愛いよ」

「むっ。適当なことを言わないでください。全然こちらを見ていないではないですか」

 拗ねたような声。しかし詞幸は彼女の方に顔を向けることができない。

「いや、さっき見たから似合ってるのは十分わかってるよ」

「もう、それだでは足りません。せっかくオシャレしてきたのですから、もっとじっくり見てもらわないと困りますっ」

(そんなこと言われても……)

 詞幸は困惑する。

(じっくり見るなんてできないよ!)

 下着が透けやすいという話をされたばかりなのだ。どうしたって意識してしまう。

「もしかして、わたくしの下着が見えるかもしれないと思って遠慮しているのですか?」

「そりゃ気を遣うよ……」

「うふふっ。透けるとわかっているのになんの対策もしない人なんていませんよ」

「本当に?」

(露出プレイに興味ありそうな発言がこの前あったばかりだから信用できないけど……)

「ええ、本当です。どれだけわたくしの浴衣を見つめても下着は透けませんよ? 残念ですか?」

「ううん、むしろホッとしたよ」

「まぁ、下着が透けないのは着けていないからなのですけれど」

「ひゅえ!?」

 今度こそ視線を奪われてしまった。

「ごめっ――いやいや、いくらなんでもそんな…………流石に嘘だよね?」

「さぁ? 気になるのなら、嘘かどうかじっくり見て確かめてみてはいかがですか?」

 妖艶な囁きにクラッとしてしまう。

 やはり詞幸は御言の掌の上で転がされるのだった。

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