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第165話 勉強会リベンジ⑩

「ヌーディストビーチ!?」

 一同が色めき立つなか、とりわけ強い反応を示したのが愛音(あいね)だった。

「それってあれだろ!? おっぱいがいっぱいの楽園のことだろ!? 噂には聞いていたが……地球上に実在していたのか!」

 まるでムー大陸の手がかりでも見つけたかのような騒ぎようである。

「行きたい、行きたい、行きたーい! ミミ、アタシを楽園に連れて行ってくれ!」

「まぁっ、ご一緒してくださるのですか? では具体的な日程を――」

「だめだよ愛音さん!」

 詞幸(ふみゆき)は口を挟まずにはいられなかった。

「そんなところ行っちゃだめだ!」

「なんだよ、ふーみん。お前は行きたくないのか?」

 口をへの字に曲げて不機嫌そうに言う。

「未成年のアタシらが合法的に生おっぱいをじっくり拝める機会なんてそうそうないんだぞ? アタシだって友達に大金を負担させるのは心苦しい。だが、いくら頼み込んでもケチなキョミはおっぱい見せてくれないんだから仕方ないだろ」

「そこで私のせいにしないで……」

「とにかくっ、行きたいとか行きたくないとかそういうことじゃなくて、ヌーディストビーチは裸にならないといけない場所なんだよ!? 愛音さんは男に裸見られてもいいの!?」

「なに!?」

 咄嗟に愛音は両胸を手で押さえる。まるで服を透かして大事なところが見えてしまうのを防ぐかのように。

 そして当然、お前が言うな、とでも言いたげな敵意の籠ったその視線は詞幸に向いていた。

「う~~~~っ。あ、あの楽園は脱ぐのも脱がないのも自由じゃないのか!?」

 恥じらいながらもそれを誤魔化すように語気を強める愛音。対する詞幸はプールでの記憶を呼び覚まさないよう心を強く持って答える。

「確かに、絶対脱がなくちゃいけないっていう厳格なルールを設けてるヌーディストビーチは珍しいはずだよ。でもああいうところは全裸こそが正装、女性でも上は脱ぐのが当たり前なんだ。肌を隠してると基本的に白い目で見られるし、冷やかしの外国人観光客なら罵倒を浴びせられて排除されちゃうよ?」

「……なんかヤケに詳しくない?」

「うん……。月見里(やまなし)くん、行きたくて調べたんだろうね」

 ひそひそと話す詩乃(しの)季詠(きよみ)の声が聞こえたが、咳払いを挟んで仕切り直した。

「愛音さんも、自分の裸を見られてまで誰かの裸を見たいとは思わないでしょ? 男の俺だって嫌なんだから。上ノ宮(かみのみや)さんだって見られるのは恥ずかしいんじゃないの?」

「もちろん恥ずかしいに決まっています。そんな、はしたない」

 意外にも、言い出しっぺの御言が同意を示した。

「だったら――」

「だからこそ興奮するのではないですか!」

「はい……?」

「愛音ちゃん、ヌーディストビーチは裸を見にいくところではありません。それはマナー違反です。ヌーディストビーチとは裸になりに行く――魂を解放するための場所なのです!」

 恍惚とした表情を見せて御言は語る。

「衣服とは理性。知恵の実を食べてしまった人類が恥を覚えたがために生まれた存在です。知恵がなければ、わたくしたちは局部を隠すという行為を当たり前のこととすることはなかったでしょう。――どこまでも青く澄んだ空と海の境界線でその理性を脱ぎ捨て、一糸纏わぬ原初の姿で自然と一体となる――。初めは羞恥を感じるでしょう。ですが、それにも段々と慣れていき、裸でいることこそが自然だと感じるようになっていくのです。知恵を得たことで繁栄を築いた人類が、知恵を捨て去ることで得る二律背反の歓び。ああ、それはどんなに気持ちいいことなのでしょか!」

 両手を広げて虚空を見上げ、高らかに宣う。

 しかし、その紅潮した頬からは、自然と一体になるという高尚さは微塵も感じられなかった。

(完全に露出狂の顔だよ!)

 本物の感性を目の当たりにし、台所で織歌から聞いた話を疑うしかない詞幸であった。

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