第162話 勉強会リベンジ⑦
「ちょっと疲れてきたね」
詞幸が肩をほぐしながら時計を見ると勉強開始から4,50分が経っていた。どうやら前回御言が言っていた『15・45・90の法則』どおり、集中力が切れてしまう時間のようだ。
「そうですね。休憩にしましょうか」
と御言が言葉を返したところで、またもその人は現れた。
「皆さんいらっしゃあい! お茶をお持ちしましたよお!」
「母さん!?」
まるで見計らっていたかのようにドンピシャの登場である。
常であればその気遣いとタイミングのよさから大いに感謝されるだろう。
しかし、息子には母への感謝よりもまず真っ先に口にしなければならないことがあった。
「どうしてここに!? 仕事のはずじゃあっ……」
なに食わぬ顔で机にトレイを置いた母に詰め寄る。
そう。彼は前回の勉強会で母親の乱入に遭って非常に恥ずかしい思いをしたため、今回はまかり間違ってもそうならないようにと、パートに出る日をカレンダーで確認してから日程を決めたのだ。
なのにどうして家にいるのか?
「嘘の予定を書きましたあ! 今日はシフトじゃありませえん!」
「なんでそんなことを!?」
「だって気になるんだも~んっ」
いい歳してダブルピースではしゃぐ母親に眩暈がする。
「ふっふっふ。あんたの行動をコントロールするために母さんは偽の予定を書き込んでたのよ。今日以外はずっと家にいることにしておけば、親に干渉されたくないあんたが女の子を呼ぶのは逆に今日しかなくなるわよね?」
勝ち誇った様子で揚々と作戦内容を説明する。
「そうやって女の子を呼ぶ日を決めさせて、今日は仕事に行ったフリをして映画館で時間を潰してたのよ。それで頃合いを見て家に帰ってきたってわけ」
「で、でも…………俺またみんなを呼ぶなんて一言も――」
「あんだけそわそわしてれば言わなくたってわかるわよ。何年あんたの母親やってると思ってるの?」
「ぐうっ……」
なにか言い返したかったが、後ろから「態度でわかりやすいもんね~」「確かに」などと聞こえてきては言葉も出てこない。
「昨日も珍しく掃除機なんてかけちゃって。あからさますぎちゃってお父さんにもバレバレだったわよ?」
「……………………」
もう反論する気力もない。自分は完敗したのだ。ただの敗北者だ。
肩を落とし、詞幸はこの怪獣に蹂躙される覚悟を決めるのだった。