第160話 勉強会リベンジ⑤
一通りやり終えたという達成感を感じさせる顔の詩乃、そして涙目の季詠。
二人の顔を見比べ、これまで事の成り行きを黙って見守っていた織歌が尋ねた。
「どうしてこんなことになったんだ?」
その声音に糾弾しようという意思は感じられない。ただただ呆れの色が濃く滲んでいた。
「べっつにぃ? さっき言った理由以外には特になんもないし~」
掌を上に向けてこれ以上話すことはない、という態度をとる。
しかし織歌には腑に落ちなかった。これまで詩乃は相手が本気で嫌がるような悪戯をしたことがなく、なにか原因があったのではないかと考えたのだ。
「特にきっかけはなかったのか?」
「それが……わからないの」
目の端の雫を拭って季詠は答える。
「私はただ今日の詩乃がいつもよりもっと可愛く感じたから、『その服オシャレだね』とか『いつもとメイク違うけど綺麗だね』って褒めただけなの。そしたらいきなり騒ぎ出して……」
なにが詩乃の逆鱗に触れたのかわからない、と首を振った。
どうやら詩乃がなにかに怒ってこんなことをしたと思っているらしい。
「可愛いと褒めただけ、か……」
「………………」
その詩乃はと言えば、そっぽを向いて黙したままだ。なんの反応も示さない。
(いや…………ちょっと耳が赤い?)
その些細な変化に気づいたところで、やはり事態を静観していた御言が口を開いた。
「あらあら、うふふっ。まるでそれって――」
うっとりするような顔になり、胸の前で手を合わせた。
「まるでツンデレさんのようですね」
「はぁ~ッ?」
素っ頓狂な声を上げる詩乃だったが、それに構わず御言は持論を展開した。
「まるで漫画の中に出てくるヒロインのようではないですか。可愛いと言われて本当は嬉しいのに、それで素直に喜んでしまうと相手に好意がバレてしまうから、逆の反応を取ってしまうのです」
「ちょっ、はっ、はぁっ? ほんとマジでなに言ってんのぉ!?」
大きく目を見開いて否定する。
が、その狼狽え方と強い語調のせいで逆に御言の説に信憑性を与えていた。
「くっ、そういうことか!」
そしてその説に愛音までもが乗っかってしまう。
「しののん、この勉強会、合コンの誘いを蹴ってまで参加するって言ってたろっ?」
「ちょっとぉ! 恥ずいからそーゆーことバラさないでよ!」
「暇さえあれば合コンに参加するあばずれビッチが勉強会に来るなんておかしいと思ったんだよ」
名探偵よろしく人差し指で詩乃を照準して推理を披露したのだった。
「それがまさか、男に全然相手にされないからって女に鞍替えしていたなんてな! そしてお前はキョミの魅力に気づき、好きになってしまったというわけだ!」
「どうしてそんな話になるワケ!? って、なにききっぺも恥ずかしがってんのぉ!? ウチはノンケだからぁ~~~~~ッ!」