第15話 青い春の使者?
「そういえば、ふーみんって部活なにやってんだ?」
帰り支度をしていた詞幸に、小さな背中にリュックを背負いながら愛音が話しかけた。
詞幸は英語の参考書や宿題の数学問題集を鞄に詰めていた手を止める。
「え? あー、俺中学でも帰宅部で、いまさらなにか始めるのも面倒だからなにもやってないんだ」
「なぁーーーにぃーーーーっ? 部活に入ってないだと!? いけない! そんなことじゃーいけないぞ、ふーみん!」
単なる雑談だと思って軽く答えたのに強い語気で否定されて詞幸は固まってしまった。
そんな彼をよそに、愛音は身振り手振りを交えて熱弁を振るう。
「いいか? 漫画とか校長の話とかで何度も何度も聞いてもう聞き飽きたってレベルだろうが、”今”という瞬間は今しかないんだ。アタシたちが高校生でいられる3年間という期間はあまりにも短い。だがこの3年間――青春は人生の中で最も尊い時間だ。夢に向かって励み、友との絆を育み、時には恋もして、輝かしい未来への道を探す大切な時間だ。青春は大人になってからじゃ取り戻せない。一分一秒だって無駄にしちゃーいけないんだ。それなのに、お前は独り寂しく家で過ごすだけだというのか!」
時に天を仰ぎ、己の肩を抱き、最後は芝居がかった動きで右手を差し出した。
「さぁ、この手を取れ! アタシがその暗い場所から連れ出してやる! 見せてやるよ、本物の青春ってヤツをさ!」
バッチーン、とキメたウインクからは星が飛び出さんばかりだ。
「――あ、」
熱の籠った言葉に、詞幸は雷に撃たれたかのように放心する。
感動という電流が全身を駆け巡って震わせたのだ。
「あ、愛音さん…………」
詞幸は目頭を熱くし、椅子を弾く勢いで立ち上がった。
「俺が間違ってたよ! 俺はこの青春を全力で謳歌する! 始めることを恐れずに、新しいことにチャレンジしてみるよ!」
差し出された手を包み込むように握り、強く想いを籠める。
「そうかそうか、わかってくれたかふーみん!」
愛音もまた、がっちりと両手で詞幸の手を握り返した。
「なら、まずはアタシたちの部活に体験入部してみないか?」
「いいの!? ありがとう愛音さん! ぜひ参加させてよ!」
詞幸は繋いだ手をぶんぶんと振って喜びを表した。
「…………」
この暑苦しい茶番を胡乱な眼差しで見守っている人物がいた。季詠だ。
「……ねぇ、愛音」
詞幸には聞こえないように小声で問いかける。
「昨日、先生から言われたこと覚えてる? 今日中に部室の掃除をしておきなさいって――」
振り向いた愛音から返されたのは言葉ではなく、ニヤリと口角を上げた笑みだった。