第157話 勉強会リベンジ②
他人には隠しておくべき、特に女性には絶対に知られてはならない秘密を明るみにされてしまった。
「もう好きに見ていいから……」
抵抗するだけ無駄。取り繕ってももう遅い。詞幸は早々に抗戦の意思を放棄した。
箱の中身を一瞥した季詠から若干距離を取られたのが悲しいが仕方がない。女性からすれば嫌悪するのが当然な品物だという自覚はある。むしろほかの面々が大らかなのだ。
もしこれで愛音までもが軽蔑の眼差しを向けてくるというのであれば、どんなことをしてでも信用回復に努めるところだが、幸いにして彼女はこの手のものに好意的だ。その心配はないだろう。
「ふーん……」
そう思ったのだが、しかし愛音は段ボールの中を軽く漁っただけで、もう興味を失ってしまったかのようにその場を離れた。
「あれ? 愛音さんこういうの興味なかったっけ?」
「お、おう。まーな……。だけど今日は勉強するために集まったんだからな。いつまでもふざけてちゃダメだろ」
歯切れの悪い、そして愛音らしからぬ優等生的な回答。
その様子が引っ掛かり、さらに質問を重ねようとしたとき、不意に腕を引っ張られた。
「月見里、飲み物の用意でもしないか?」
織歌だった。今日も黒いアンダーリムの眼鏡をかけている。
「炎天下を歩いてきて喉が渇いたんだが、他人が勝手に台所を使うわけにもいかないだろう? ちょっと来てくれ」
「あっ、気が利かなくてごめん。じゃあ一緒に用意しようか」
「なら私も手伝うよ?」
手を挙げた季詠に、織歌は首を横に振って応じる。
「いや、3人がかりでするほどでもないだろう。それに帯刀は勉強を見てくれる側で、わたしは見てもらう側だ。そんなことまでさせてはきまりが悪い」
言いながら、それ以上の反論は認めないとでもいうように詞幸の背を押して部屋から出ていった。
台所に織歌を案内した詞幸だったが、人数分のコップを用意しながら彼女に責められていた。
「お前はなんてデリカシーのない奴なんだ……」
ほとほと呆れ返ったという声だった。
「エロ本とAVを指して『こういうの興味なかったっけ?』なんて女に言う馬鹿がどこにいる」
「いや、でも実際そうでしょ? ああいうの好きなはずなのに愛音さんの様子がおかしいから心配になって――」
「確かにあいつは女なのに日頃から巨乳がどうのこうのと騒いでいるがなぁっ、別にお前が持ってるコレクションの類すべてが好きなわけじゃないんだよ!」
語気が荒くなる。物わかりの悪い子供に苛立つ母親のようであった。
「あいつは女のエロは好きだが男のエロは苦手なんだよ! あいつは見た目通り感性も基本的にお子ちゃまだ。たとえモザイク有りでも男の裸の写真や映像なんて直視できるわけがないんだ!」
「まさか……。だって愛音さん言ってたよ? お兄さんがエロゲーやってるのを横で見て邪魔するのが趣味だって」
「ただの絵とリアルな人間では生々しさが段違いだろうが! そんなこともわからないのか!」
「! 確かに…………俺が初めてリアルな無修正もの見たあと、なんだか女の人がエイリアンみたいに見えて恐くて仕方なかったもん! あれと同じなんだね!」
「大体同じだろうが、それを女であるわたしに言うのはやはりデリカシーがないな…………」