第156話 勉強会リベンジ①
「そろそろみんなが来る頃かな」
時計を見上げるとあと5分で約束の時間だった。
前回の勉強会から十日以上経ち、お盆の時期も過ぎたということで再び集まることとなったのだ。
詞幸にとって勉強会といえば、学力の向上を齎したという実感よりも、母親の乱入と暴走による恥ずかしさの記憶の方が勝っている。
そこで過去の反省を活かし、今回は母親がパートに出ている日を集まる日に設定したのだ。
「まあ今日も真面目に勉強なんてできるかわからないけどね」
彼が開き直ったようなことを口にするのは別にやる気がないからではない。むしろやる気は横溢している。
ただ、自分の性質と状況をよく理解しているだけなのだ。
実際、客人を招き入れるときにはもう彼の頭から勉強のことなどすっかり吹き飛んでいた。
「みんないらっしゃい!」
玄関扉を開けると少女たちが挨拶の言葉を口にする。とりわけ最前列の少女は溌溂と手を挙げて声を張った。
「おう、邪魔するぞー!」
「こら、お行儀悪いわよ。他人の家にお邪魔するときは礼儀正しくしなくちゃ」
そう、今日の勉強会には愛音と季詠も参加し話術部員が勢揃いすることとなったのだ。
想い人を自室に招くという事態に詞幸が冷静でいられるわけもない。
(どどどどどどどうしよう愛音さんが俺の部屋に! もしかしたら二人っきりになることもあるかも!?)
1つの部屋に6人の大所帯が勉強するために集まった状況で二人きりになれることなどまずない。
完全に浮かれていた。
「まぁ特に面白みのない部屋だけど入って入って~」
「それ俺が言うべき台詞……」
なぜか訳知り顔の詩乃に促され、愛音と季詠が初めて詞幸の部屋に足を踏み入れる。
すると愛音は開口一番、
「よーっし、エロ本でも探すか!」
「またそれ!?」
「ほらぁ! やっぱみんな探すんだって!」
デジャビュでも見ているかのような展開だった。
「おいおい『また』ってどういうことだよ」
「実は先日のお勉強会のとき、わたくしたちで詞幸くんのお宝を既に見つけてしまっているのです」
愛音に説明しながら御言はクローゼットの前で足を止めた。
「ちなみに、そのエッチなお宝はいまここに隠してありますっ」
これまた訳知り顔の彼女が御開帳して披露したのは、段ボールに詰まった少年の欲望の塊だった。
少年誌掲載のちょっとエッチなラブコメディーからガッツリ18禁の雑誌やDVDまで、とにかく表紙・パッケージの肌色率が高いものばかりがこれでもかと詰まっている。
「うおーっ! おっぱいがいっぱいだーっ! 」
「…………ま、まぁ月見里くんも健全な男子高校生だし、うん。うん…………」
悦びに満ちた目と失望に沈んだ目。
早くも浴びせられた洗礼に、やはり今日も勉強どころではないな、と詞幸は諦めるのだった。