第153話 初めての共同作業④
ごたごたはあったものの、詞幸と愛音はようやっと冒険を始めた。
愛音が操るのは、見た目そのままの名前の《キョミ》。
対する詞幸はと言うと。
『ふーみんのキャラは見た目に反して随分カッコいい名前だな。《アイオーン》って』
「ま、まあね……」
元々《アイネ》という名前だったのを、このままではマズいと急遽変更したのだ。
愛音の“音”を“オン”と読んで伸ばし棒を入れただけだが、本人には気づかれなかったらしい。
初心者の詞幸――《アイオーン》を経験者の愛音――《キョミ》が介護し、魔物討伐と探索を繰り返していく。
『おっ、いまのレアドロップはなかなかいい装備だぞ! アタシはもう持ってるからお前にやろう!』
「ありがとう! そんなに強いんだ?」
『まー性能はそこそこだな。だがレオタードの食い込みがめちゃんこエロい!!』
「薄々気づいてたけどこのゲームちょっといかがわしいよね!?」
実際、年端も行かない少女である《アイオーン》に着せると犯罪臭が半端なかった。
(でも愛音さんと二人っきりでゲームするなんて――なんだかこれっておうちデートみたいじゃない!?)
浮き立つ心に、愛音と話す詞幸の声も弾む。
二人は、夏休みの宿題の進捗状況はどうか、お盆はどこか行くのか、かき氷はなに味が好きか、など会話をしながら冒険に没頭した。
当然リアルで会うこととヴァーチャルで画面越しに話すのでは感覚としては全く違う。
詞幸も愛音に誘われた当初は、どうせなら直接会って遊びたい、と思っていたのだ。
しかし、こうして実際に話してみるとそんなことは些細な違いにしか感じられなかった。
胸を温かくするこの喜びは本物なのだから。
「そういえばちょっと気になったんだけどさ――」
さりげない風を装って詞幸が切り出したのは、少し疲れたから休憩しよう、となったときのことである。
「このゲームって同性同士でも結婚できるんだっけ?」
愛音から一緒にやろうと言われてすぐ、詞幸はこの作品の概要を調べ、そして《結婚》というシステムに心惹かれた。
曰く、専用イベントやクエストの発生と、アバターが身に付ける指輪が贈られるというのだ。
ゲームの中だけの疑似的な、おままごとのようなもの。しかし、そう思ってもなお興味は尽きない。
かといって恥ずかしさから直接切り出すこともできず、こうして知らないフリをして探りを入れているのである。
そんな心の機微など知るはずもなく、愛音はただ質問されたから答える、という感じで言った。
『できるぞ?』
そして次に発せられたのは、詞幸が待ち望んでいた台詞だった。
『せっかくだしアタシたちも結婚するか?』
(のわああああああぁぁぁぁぁぁ! ヤバいぃぃぃぃぃ! 愛音さんからプロポーズされたあああああああああぁぁぁ! 嬉しいいいぃぃぃ! いまの録音しときたかったあああぁぁぁ!)
と、こんな調子の詞幸がその申し出を断るはずもなく――
舞台は教会へと移る。
これからの二人の日々を象徴するかのように、教会の中は純白。
祭壇奥のステンドグラス越しに差し込む光が床に煌びやかな文様を描いていた。
その静謐な空気の中、二人の少女が向かい合う。
彼女らは互いの左手薬指に、銀に輝く愛の証を嵌めていく。
『アタシさ、異性同士とか同性同士とか関係なく、こういう風に厳かな雰囲気の中で愛を誓い合うっていうのは、とても尊いことだと思うんだよ――』
「うん――」
静かに言う愛音に詞幸も同意する。
『でも――痴女同士の結婚式はありえないよなー』
力の抜けきった声を出した。
「…………うん」
そう、神父の前で見つめ合う二人は冒険時の服装のままで、《アイオーン》はレオタード、《キョミ》はTバックと、揃って尻丸出しなのである。
『コントにしか見えなくて雰囲気ぶち壊しだわー』
「このときだけ自動で服が変わればよかったのにね……」
初めての共同作業は、痴女に見えない装備選びだったという。