第14話 いいご趣味ですね
「漫画とかアニメってどんなジャンルが好きなの? ほら、恋愛ものとかバトルものとかさ」
黒髪を靡かせて少女が飛び出した扉から視線を戻し、詞幸は軽く手をパンッ、と合わせた。
仕切り直しの質問だった。
愛音は顎に人差し指をあて、思案する仕草を取る。
「んー、好きなジャンルかー。あんまり意識したことなかったな――。アタシ、兄貴がいるんだけさ、アタシの趣味ってかなり兄貴の影響受けてるんだよなー」
言われてみればどことなく妹っぽい性格だな、と詞幸は納得する。
「お兄さんと一緒にアニメ見てるんだ?」
「ん? おー、そうだな。アタシの部屋にはテレビもパソコンもないから、大きな画面で見ようと思うと兄貴の部屋で見るしかないんだよ」
一般的な兄妹というのはそこまで仲がいいのだろうか。一人っ子である詞幸には判断材料がなかったが、その仲睦まじい光景を思い浮かべると自然と頬が弛んだ。
「あ、そうだ。アタシが好きなジャンルっていったらアレだ、アレ」
パチン、と指を鳴らして、どこか誇らしげにその薄い胸を張った。
「エロいヤツ。エロいのが好きなんだよ」
「……………………は…………え?」
「あ、エロいのって言ってもホモホモしいのじゃないぞ? 兄貴にそっちの気はないからな、そういう系のは録画してないんだ」
聞いたのは詞幸自身だが、彼はむしろ聞かなかったことにしようとすら思ったほどだ。
「アタシが好きなのは女がエロい目に会うやつな。パンチラとか乳揺れとかあるのがいいな。特に乳揺れは興奮する。あのポヨンポヨン感が堪らないよなー、揉みたくなるもん。ふーみんもわかるだろ? ――そう、つまりアタシはおっぱいが好きなんだよ。自分に欠落してる要素だからかもしれんが……」
最後は自嘲気味に自身の胸に視線を落として締めた。
「え、えーっと…………エロいのが好きなの?」
「おう、そのとおりだ」
その返事は力強く、貧乳への憂いを感じさせない。芯の通った揺るぎなさは大地に根を下ろす大樹のようですらある。
「まぁエロいのが単純に好きというのもあるが、妹の横でヒロインの裸とかサービスシーンを気まずそうに見てる兄貴が面白いというのもある」
「気まずいどころの話じゃないよ!?」
それでも妹を部屋から追い出さないお義兄さんのメンタルは凄いな、と勝手に脳内で『義兄』扱いする詞幸であった。