第139話 水着とプールと㉔ 長い1日の終わり
夕空の下を車は駆ける。
愛音と詞幸の間に禍根を残すことなく問題は解決し、緊張感から解放された車内は、それでも行きの騒々しさと打って変わって小さな話し声がポツポツ聞こえるのみだった。
というのも、愛音が眠ってしまったのだ。
(はあ~、寝顔もとってもキュートだよお!)
遊び疲れて眠ってしまうという小さな子供そのものの行動に愛らしさを感じる。
と、カーブに差し掛かり、遠心力で体が大きく傾いた。
「あわわわわっ」
それで車が横転するということもないのだが、しかし彼が狼狽えるのも無理はない。
なぜなら、カーブの拍子に愛音が詞幸にしなだれかかってきたのである。
愛音の頭は詞幸の胸の位置に収まり、その小さな顔がこれ以上ないほどに近づいていた。
華奢な体が密着してゼロ距離で体温を感じる。
(どうしようどうしようどうしよう!)
起こしたら可哀想だし起こしたくない、このまま幸せな時間に浸っていたい。
しかし、穏やかな寝息を立てて眠る彼女からは甘い香りがして、否応なく女性としての存在を意識してしまう。
あの光景を思い出してしまう。
(やばっ――)
詞幸は愛音のことが好きなのである。そんな彼女のあられもない姿を目の当たりにして、何も感じないはずがなかった。
「ねぇ、もしかして興奮してる~?」
意識の外から話しかけられ、詞幸の肩が大きく跳ねる。
そうからかってきたのは愛音を挟んで反対側に座る詩乃だった。彼女は詞幸を上から下までじっくり観察してニヤニヤしている。
「興奮なんてしてないよ!」小声で叫ぶ。「俺はただ、ほんのちょっとビックリしただけだよ!」
「あらあら、なんとも素敵なことになっていますね」
今度は斜め前から声がした。いつの間にか御言がこちらを覗き込んでいたのだ。
「その体勢ではつらくありませんか? よろしければ、いま慌てて膝の上に乗せたバッグはこちらで預かりますよ?」
「いやこれは……ッ!」
詞幸はバッグを抱え込む。まるで奪われたら己の命が尽き果てるかのような必死さで。
その不自然な行動を見て、御言の口元が嗜虐的に歪んだ。
「詩乃ちゃん、詞幸くんのバッグを奪ってくれますか?」
「オッケ~♪」
「ちょっ――」
それだけは絶対に許してはならない。こんな状態を女の子に見られるワケにはいかない!
「お願いだからそれだけは勘弁して! 俺をこれ以上辱めないでえええええええええッ!!」
――こうして、
青春の爽やかさをとはかけ離れた、水着とプールと乳首に彩られた夏の1日が終わったのだった。 夕空の下を車は駆ける。
愛音と詞幸の間に禍根を残すことなく問題は解決し、緊張感から解放された車内は、それでも行きの騒々しさと打って変わって小さな話し声がポツポツ聞こえるのみだった。
というのも、愛音が眠ってしまったのだ。
(はあ~、寝顔もとってもキュートだよお!)
遊び疲れて眠ってしまうという小さな子供そのものの行動に愛らしさを感じる。
と、カーブに差し掛かり、遠心力で体が大きく傾いた。
「あわわわわっ」
それで車が横転するということもないのだが、しかし彼が狼狽えるのも無理はない。
なぜなら、カーブの拍子に愛音が詞幸にしなだれかかってきたのである。
愛音の頭は詞幸の胸の位置に収まり、その小さな顔がこれ以上ないほどに近づいていた。
華奢な体が密着してゼロ距離で体温を感じる。
(どうしようどうしようどうしよう!)
起こしたら可哀想だし起こしたくない、このまま幸せな時間に浸っていたい。
しかし、穏やかな寝息を立てて眠る彼女からは甘い香りがして、否応なく女性としての存在を意識してしまう。
あの光景を思い出してしまう。
(やばっ――)
詞幸は愛音のことが好きなのである。先刻、そんな彼女のあられもない姿を目の当たりにして、なにも感じないはずがなかったのだ。
「ねぇ、もしかして興奮してるぅ~?」
意識の外から話しかけられ、詞幸の肩が大きく跳ねる。
そうからかってきたのは愛音を挟んで反対側に座る詩乃だった。彼女は詞幸を上から下までじっくり観察してニヤニヤしている。
「興奮なんてしてないよ!」
小声で叫ぶ。
「俺はただ、ほんのちょっとビックリしただけだよ!」
「あらあら、なんとも素敵なことになっていますね」
今度は斜め前から声がした。いつの間にか御言がこちらを覗き込んでいたのだ。
「その体勢ではつらくありませんか? よろしければ、いま慌てて膝の上に乗せたバッグはこちらで預かりますよ?」
「いやこれは……ッ!」
詞幸はバッグを抱え込む。まるで奪われたら己の命が尽き果てるかのような必死さで。
その不自然な行動を見て、御言の口元が嗜虐的に歪んだ。
「詩乃ちゃん、詞幸くんのバッグを奪ってくれますか?」
「オッケ~♪」
「ちょっ――」
それだけは絶対に許してはならない。こんな状態を女の子に見られるワケにはいかない!
「お願いだからそれだけは勘弁して! 俺をこれ以上辱めないでえええええええええッ!!」
――こうして、
青春の爽やかさをとはかけ離れた、水着とプールと乳首に彩られた夏の1日が終わったのだった。