第13話 秘密の練習
愛音との距離を縮めるにはまず共通の話題を見つけなければならない。価値観の共有は人との繋がりにおいて最も重要だと言っても過言ではないのだ。
そう考えた詞幸は、休み時間、後ろの席の愛音に半身で向いて単刀直入に聞いてみることにした。
「愛音さんの趣味ってなに? 休みの日ってなにしてるの?」
「んお?」
机に上体を投げ出すような態勢でスマホを弄っていた愛音は、視線だけを上向けた。
「そりゃお前、若者らしくアクティブに活動してるよ」
「もう、また適当なこと言って」
傍らに立った季詠は、ほら、と愛音の背中を叩いて猫背を直させた。
「愛音は部屋にこもってできることしかやらないの。それも勉強したり楽器を弾いたりじゃなくて、漫画とかゲームとかアニメとかそういうのばっかり。家でずっとゴロゴロしててスポーツ系はからっきし。体を動かさないと大きくならないわよ」
途中からはお小言に変わっていたが、愛音は素知らぬ顔だ。
「そんな全国のオタク小学生たちの母親みたいなこと言ってもアタシの心は動かんぞ。だいたいなー、スポーツってのは体格が恵まれてるヤツがやるようにできてるんだ。こんだけロリロリなアタシがやっても勝てるわけないだろ? 勝てないスポーツは面白くない。面白くないとストレスが溜まって、ストレスが溜まるとホルモンバランスとかよくわからんけどなんやかんやあって、体の正常な働きを妨げて成長を鈍らせるんだ。だからアタシは無理な運動なんてしない。なんなら無理じゃない運動もしない。Q.E.D. 証明終了」
ドヤ顔で放たれた暴論に、説得は無駄だと悟って季詠は肩を落とした。
「ていうか、キョミだってけっこう深夜アニメ見てるじゃないか」
「そうなの?」
意外だ、とばかりに眼を見開く詞幸。季詠は頬を紅潮させつつ手をぱたぱたと動かす。
「あっ、あれは愛音が薦めてくるから、どんなの見てるのかなーって気になっただけで……」
「こんなこと言ってるけど、コイツこの前カラオケに行ったときノリノリでラブライブの曲唄ってたんだぞ。メッチャ可愛かったぞ~」
愛音はこの状況を楽しむようにニヤニヤ笑いを浮かべている。季詠の顔は蒸気が出そうなほど真っ赤だ。
「も、もお愛音! 恥ずかしいからそんな話しないで!」
愛音はこの抗議を華麗にスルー。
「しかもフリ付け完コピしてたから逆にちょっと引いた」
「酷い!」
辛辣な物言いに思わず詞幸の口が動いた。羞恥のためか、季詠の目尻には熱いものが溜まっている。
「あと『ラブアローシュート!』って決めポーズもノリノリ過ぎてイタかったな」
「追い打ちだ!?」
季詠はなにかを耐えるようにプルプルと震えだす。
「自分の部屋で鏡見ながら必死に練習したんだな~、って思うと実に憐れで目を合わせられなかったぞ」
「もうやめたげてよお!」
「う、うわぁ~~~~~ん!!」
愛音の連続攻撃を受けた季詠は顔を手で覆い隠して教室を飛び出した。