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第137話 水着とプールと㉒ 禁止令

「ごめんなさい! 本っ当にごめんなさい! お願いですから許してください!」

 駐車場に詞幸(ふみゆき)の声が響く。

「むぅ――――――――――っ」

 何度目かもわからない謝罪の言葉だ。しかしそれを受けてもなお愛音(あいね)の呻り声が詞幸を威圧する。彼女の態度は一向に軟化していない。

「機嫌を直してください! なんでもしますから!」

 一行は水着から着替え、いまは紗百合(さゆり)のバンに向かっているところだ。

 太陽は西に傾き始めたところであり空はまだまだ明るかったが、家に着くのが遅くならないようにと早めに帰ることとなったのである。

「愛音ったらまだ怒ってるの?」

 季詠(きよみ)は呆れ顔だ。『事件』のことはすぐに共有され、皆の知るところとなっていた。

 女性陣も加わり総出で愛音を宥めようと試みたのだが、その甲斐なく、彼女は未だふくれっ面のままなのである。

「わざとじゃないんだから許してあげないと月見里(やまなし)くんが可哀想じゃない」

「故意だろうが過失だろうが被害者は心に傷を負って加害者は目の保養をしてるんだぞ!? 許せるわけないだろ!」

「目の保養って――アンタ、自分の乳首にそんな価値があると思ってんだ?」

 嘲るように冷たく詩乃(しの)が言う。同性として彼女も初めは同情的だったのだが、いつまで経っても折れようとしない愛音にうんざりしていた。

「見られたって大したことないっしょ、アンタのお子ちゃま乳首なんて。蚊に刺されみたいなもんじゃん」

「なにをー!?」

 掴みかかろうとする愛音を腕一本でリーチの差によっていなし、詩乃は季詠に向き直った。

「ね、そーいえばアノ人が詞幸の乳首触っちゃったのってわざとじゃないよね? 男の乳首触りたいなんて変だし」

 乳首の話をしていて思い出してしまったらしい。

「さぁ……私も触りたいとは思わないからなんとも……」

「おい! ふーみんの乳首の話なんかよりアタシの乳首の話だろ!」

「そうだよ、俺の乳首の話をほじくり返さないでよ!」

「なんで喧嘩してるアンタらが結託してんの!? ウチは詞幸がずっと責められてるから助けてあげようと思ってアンタの乳首に話題を持ってったんじゃん!」

「アタシの乳首とふーみんの乳首と同列に扱うな! もっとアタシの乳首を尊重しろ!」

 ギャアギャアと騒ぐ彼ら。その後ろから、事の成り行きを見守っていた人物が我慢ならないと声を張り上げた。

「あぁーもう! いいかげんにしなさい!」

 紗百合だ。

「あなたたち、思春期だからそういうことに興味が出るのは仕方ないけど、いくらなんでも度が過ぎてるわよ!」

 スゥっと息を吸い込む。

「周りにも人がいるのに大きな声で乳首乳首連呼してたら恥ずかしいでしょう!!!」

(先生の方が大きな声出してる……)

「よってここに『乳首禁止令』を出します! 話術部では今後一切、あらゆる乳首を禁じます! いいですね!」

 意味のわからない発言ではあったが、しかしこれは効果覿面だった。

 人の振り見て我が振り直せ。

 公衆の面前で立場のある大人が大声で乳首と発言し、他人から奇異の目で見られる状況というのは、意外と堪えるものであった。

 周囲の視線が痛い。

「「「はい……」」」

 この恥ずかしい大人と知り合いだと思われたくない、と彼らは揃って静かになった。

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