第133話 水着とプールと⑱ 秘密の話
食後、季詠はリラクゼーションプールという温水のプールを一人で訪れていた。
ここは泳ぐのではなく、温かなネックシャワーやジェットバスなどで体をほぐす場所である。施設の外れにあるために喧騒から遠く、静かな水音の中でまったり休むことができる。
彼女はそこで足を伸ばして温水に浸かっていた。
「あ~~~気持ちいい~~~」
ほかに利用者がいないため思いっきり気の抜けた声を出す。すると。体の芯に残っていた熱が冷まされていくような気がした。
「……なんか私、浮かれちゃってるのかも」
先ほどの狂乱状態と、とある行為を思い出して呟く。
昼食のあと、自分のあまりのみっともなさを直視できず、逃げるように――いや、“ように”ではなく逃げてきたのだ。
今日は以前から楽しみにしていた話術部での初めての遠出。夏休みの高揚感と開放的な環境が合わさり、常に冷静で落ち着いた振る舞いを心掛けている自分もタガが外れてしまっているのかもしれない。
気をつけないと。
気持ちのリセットのために両手で頬をパシッとたたくのと、声を掛けられたのは同時だった。
「季詠ちゃん、ご一緒してもよろしいですか?」
御言だ。にこやかな笑みを湛え、胸の前で両手を合わせて小首を傾げている。
いまのを見られちゃったのか、と気恥ずかしい思いをしながら季詠は首肯した。
それを受けて御言は季詠の隣に腰を下ろすと、ほっとしたように息をついた。
「みんなは?」
「ウォータースライダーに行こうかと話していました」
「ふぅん。御言は一緒に行かなくていいの?」
「はい」
ずいっと御言の体が近づく。
「季詠ちゃんと二人きりでお話がしたかったので」
「え……?」
「女同士の秘密のお話です」
それは吐息交じりに囁くような言葉。さわやかな陽光のような笑みが、深く香る妖艶なものへと変貌していた。
気づけば、薄紅色の唇が近づいてきている。
(まさか……)
女性の自分でも見惚れてしまうくらい綺麗な肌が、水をはじいて輝いている。
(嘘でしょ……?)
突然の出来事に季詠は動くことができない。熱を帯びた瞳が段々と近づいてくるのをただ見つめる。
(~~~~~っ!)
堪らずぎゅっと目を瞑ると、いたずらっぽい声が耳をくすぐった。
「詞幸くんのアレ――ち、乳首を触ったの、季詠ちゃんですよね?」
「……………………………………え?」
慮外の一撃に、サァッと血の気が引く。
「実は――うふふっ、わたくしも触っていたのです」
「ええええぇぇぇ~~~~~~~~!?」