第129話 水着とプールと⑭ スキャンダル
パラソルの影でチェアに腰かけてトロピカルジュースを飲んでいると、トボトボと緩慢な歩みで近づく人影があった。
「あ~あ、全然釣れなかったぁ……」
詩乃だ。うな垂れた様子で髪先をいじっている。
「あ、アンタらもこっち来たんだ……」
詞幸と横に座る織歌を目にした詩乃は心底どうでもよさそうに言った。
「釣れなかったって……ここって釣り堀もあるの?」
レジャープールには似つかわしくないが、家族連れの父親向けだろうか。詞幸は首を傾げる。詩乃が釣りを嗜む姿というのは想像できないが。
「はぁ? んなのあるわけないじゃん。男が釣れなかったって言ってんの!」
「男!? ってことはナンパ待ちしてたの!?」
「そ。そこのプールをぐる~っと1周してきたんだけど、全然声かけらんなくてさぁ」
忌々し気に顔を歪めて毒づいた。
「こんな可愛い女の子が1人で歩ってんだから普通にナンパしろっての! これだから田舎モンは! お前らは何目的でプールに来てんだって感じじゃない!?」
「いや、プールで遊ぶのが目的でしょ……」
「家族連れがメインターゲットの施設でナンパ目的の馬鹿はいないだろう。もっとも、ナンパ待ちする方が馬鹿だがな」
織歌も呆れ顔だ。
「あぁもうっ! 折角いい男捕まえようと思って気合入れてきたのにぃ! こんなんなら海とか近くのプールとかの方がよかったぁ! 都内ならナイトプールもあるしさぁ」
詩乃はデッキチェアに気だるげに寝そべる紗百合に矛先を向けた。
「ねぇユリせんせー、どうしてわざわざこんな遠くまで来たんですかぁ? プールなんてどこにでもあるのに」
「そうですよ先生、運転で疲れるくらいならもっと近場でよかったんじゃないですか? 隣県どころか県境2つ超えちゃってますけど」
詞幸も疑問を口にする。
「……だって仕方ないじゃないの」
応じた紗百合の声は硬く、真剣さを滲ませたものだった。
「女だけで遊ぶ分には問題ないけど、今回は月見里くん、あなたもいるのよ?」
「え、俺が原因なんですか?」
「そうよ。あたしは教師であなたは生徒。こんなところをほかの生徒とか学校関係者にでも見られたら――」
肩を抱いてブルッと身を震わせた。
「あったという間に『淫乱美人教師が教え子に性的個人指導か!?』とかあらぬ噂が広まって周囲からは白い目で見られちゃうのよ!? 挙句の果てには理事長に呼び出されて『きみもこんなことで懲戒になりたくないだろう。今回の件を不問にする代わりに――あとはわかるね』って肉体関係を強要されるに決まってるんだから!!」
「妄想が飛躍しすぎじゃありません!?」
詞幸が声を荒らげると、御言が会話に入ってきた。
「いえ、女教師ものでは鉄板の展開ですね。嫌がる相手を快楽堕ちさせるカタルシスが読者に受けるでしょう」
「何目線!?」