第128話 水着とプールと⑬ ピチピチ
「遊びに来てまで小鳥遊の面倒を見るとは、帯刀もよくやるものだ」
「ははっ、愛音さんの方は『キョミに変な男が近づかないようにアタシが見張っててやるから安心しろ』なんて言ってたけどね」
まだ波に揺られていたい、という愛音と保護者役の季詠を残し、詞幸と織歌は体を休めるために有料レストスペースに来ていた。紗百合が人数分の席を押さえてくれているはずなのである。
先ほどビーチボールで遊んでいたプールに面して、パラソル付の丸テーブルと椅子のセットやデッキチェアが幾つも並んでいる。小さい子供たちから大人が目を離さないように、プールの近くに配置にされているのだろう。
キョロキョロと探しながらパラソルの林の中を進んでいると、先に向こうが見つけてくれた。
「こちらですよ~」
御言がデッキチェアから上体を起こして手招きしていた。
サイドテーブルには花が一輪飾られたトロピカルなドリンク、片手にはカバーのかかった文庫本。プールサイドで読書とは実に優雅で様になっている。中身が兄嫁調教ものでなければ完璧なお嬢様だったであろう。
「上ノ宮さん、ずっとここにいたの? 一緒に来ればよかったのに」
「ええ、わたくしもそうしたかったのですが……ユリちゃんを一人にしていくのも忍びないですから」
彼女の視線の先では、紗百合がデッキチェアに横たわっていた。
「う~~~」
御言の声に応じるかのように唸り声が上がる。
「もうちょっと休ませてぇ~」
色気もへったくれもない声だが、紗百合の抜群のプロポーションでは、たとえ横になっているだけでも画になってしまう。
「さっきは元気に動いてたじゃないですか。なんでそんなだらしないかっこうしてるんです?」
だらしない、という言葉を選んだが、セクシー水着で無防備な姿を晒されると逆にそれが魅力的に見えてしまい、詞幸は落ち着きなく視線を彷徨わせた。
「あのときは大丈夫だと思ってタカを括ってたんだけど……やっぱり駄目ね。いざ動いてみたら全然心に体がついていかなくて……」
紗百合は恥じ入るように目を伏せたあと、すぐさまパッと顔を上げた。
「あっ、でもこれは長時間の運転で疲れただけなのよ!? 別に普段運動してないから高校生の体力についていけないとか、歳をとったせいだとかいうのじゃないんだからね!? あたしまだピチピチの24歳なんだもの!」
力の籠った熱弁だった。
「『ピチピチ』という言葉のセンスがもう歳だという証左なのでは?」
「古謝さん、シッ!」
ボソリと言われた抜身のナイフのような一言に詞幸はヒヤリとするのだった。