第119話 水着とプールと④ かしまし女子部員
結局、詞幸以外は各々自由に座り、特に揉めることもなく、こう決まった。
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┃ 詩乃 愛音 季詠 ┃
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┃ 織歌 御言 荷物 ┃
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┃ 紗百合 詞幸 ┃
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⇩ 進行方向 ⇩
本線に合流するところで紗百合がアクセルを強く踏み込んだ。グンと加速した車は弾丸のように朝の空気を切り裂いていく。まだ8月に入ったばかりの、それも早い時間の高速は交通量もまばらであり、静けさすら感じるほどだ。
対して車内はといえば、やかましく、そしてかしましかった。
「だからね!? あたしは教育者として子供たちの自主性を育むべきだと考えてるの! それをあのハゲ教頭は全然わからないで時代錯誤の古臭い教育論を――」
紗百合に延々と聞かされ続ける愚痴に「はい」とか「そうですね」とか「わかります」と適当に相槌を打ちつつ、詞幸はひっそりとため息をついた。
確かに愛音の言うように、紗百合の持つ二つの丘陵がその間を走る一本の帯によって強調される様は眼福だが、彼はそのことよりも、自分の後ろで繰り広げられる楽しげな会話を――めまぐるしい展開に付いていけないながらも――羨ましく思っていた。
「なーミミ、アタシのリュックからポッキー取ってくれないかー?」
「えーっとリュックのどこにあるのでしょうか?」
「そこそこ! その横のポケットのところ!」「こら愛音! 立ち上がらないでちゃんとシートベルトしなさい!」
「きゃはははっ! ガチで怒られてやんのぉ! アンタにはチャイルドシートの方がお似合いなんじゃない?」
「なにおー!?」
「あ、そういや話は変わるけどみんなはもう宿題終わらせたぁ?」「単4電池しか入ってませんけど」
「私は7月中に終わらせたけど」「わたしは8割程度だ」「うっそー!?」
「わたくしは読書感想文がまだですね」「ウケるー! ポッキーの代わりに電池持ってくるとかありえないんだけど!」
「意外だな。上ノ宮なら帯刀と同じですぐ終わらせるかと思ってたが」「御言、ちょっとそのリュック貸して?」
「確かに。ミミってむしろそういうの得意そうだよなー」「はい、どうぞ」「ありがと」
「どうにも上手く文章がまとまらないのです」「あ、そうだ! ウケ狙いで面白いモン持ってきてたんだった!」
「ほう、どんな本を読んだんだ?」「愛音のことだからこっちの底の方に――きゃあ! なにこれ!?」
「これです。フランス書院の兄嫁調教ものなのですが……」「新生姜ペンライト!」
「「卑猥!!」」
タイトルからしていかがわしい文庫本と、いかがわしい連想をしてしまうピンク色の棒を見て、詞幸は「ここでおとなしくしていよう」と静かに誓うのだった。