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第117話 水着とプールと② 全員集合

 集合場所の駅は車を出す紗百合(さゆり)の都合で決められていた。

 ほどなくしてほかの部員たちも集まったのだが、見慣れぬ景色に皆一様にキョロキョロしていた。

 その一人に詞幸(ふみゆき)は声をかける。

「やあ、古謝(こじゃ)さん、おはよう」

「ああ、おはよう、月見里(やまなし)。少し日に焼けたか?」

 古謝織歌(おるか)は片手を挙げて応えたが、その表情はピクリとも動かない。相変わらずクールな空気を纏っていた。

「まあね。割と外には出るし、日焼け止めは塗らないから」

「そうか」

 時候の挨拶程度のつもりだったのだろう。織歌に話を広げる気はないらしく、短く頷くのみだ。

 その服装は言葉と同様に遊びがなく、無地のTシャツにジーパンという非常にシンプルなものである。

「それにしても古謝さんが来てくれてよかったよ」

 薄く微笑んで本心からの言葉を詞幸は口にする。

 織歌が難色を示したため一度は頓挫しかけたプールの計画。しかし先日、織歌が参加を表明したということで急遽日程の調整が行われたのだ。

 詞幸にとって話術部でプールに行くことは悲願であり、その願いを実現させてくれた織歌の参加には感謝しかない。

「前は行かないって言ってたのに、彼氏さんがOK出してくれたんだ?」

 織歌が不参加の意思を示していた理由は、彼氏が自分以外の男の前で水着姿になることを嫌がっていたからだ。その彼氏に心変わりがあったということだろうか。

 詞幸の問いに、彼女は小さく首肯した。

「まぁな。普段はあまり遊びに付き合ってないんだ、たまには友人たちと親睦を深めるのも悪くないだろう」

「おー、嬉しいこと言ってくれるなー、ルカ」

 と、トテトテ近づいてきた愛音(あいね)が織歌の腕に抱きつく。

「意外と友達思いのいいヤツだよなー、お前。ツンデレか? いや、クーデレか?」

「離れろ小鳥遊(たかなし)。暑苦しい」

「やーだよー」

 顔を歪める織歌だが、愛音はコロコロと笑って放そうとしない。

「それにしてもこうやって全員揃うのは久しぶりだなー」

 織歌にしがみついたまま愛音が言う。

「十日ぶりくらいか? みんなでディズニー行って以来だから」

「――へ?」

「あっ」

 口をあんぐり開けて固まる愛音。眉を顰める織歌。あちゃー、とばかりに額を押さえる詩乃(しの)。ほかの面々も気まずそうに目を逸らした。

「………………………………………………」

 重い沈黙が横たわる。

 胸に穴を穿たれたような空虚さが襲った。

「みんなでディズニー!? なんでなんで!? 俺誘われてない!」

 その空気に耐え切れず、詞幸が声を荒らげる。

 応じたのは紗百合(さゆり)だった。

「ごめんなさいね、月見里くん。別に仲間外れにするつもりはなかったのよ」

「先生も行ったんですか!? 俺は誘われてないのに!?」

 より大きなショックを受ける詞幸。

「ほらぁ、たまには女子だけで気軽に楽しみたいこともあるしさぁ~……」

 取り繕おうとする詩乃だったが、頬を掻きながら、決して詞幸と目を合わそうとしない。

「なんか詞幸誘うとビミョーなるかなぁ~って」

「……いまの一言は余計だよ…………」

 高まっていたテンションがすっかり萎んでしまう詞幸であった。

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