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第114話 お姉ぇがなんか変①

 大通りから離れた閑静な住宅街。

 そのとある一軒家の2階で、カーテンをさらさらと揺らす夜風に紛れ、呻り声が轟いていた。

「ぬあぁ~~~~~~~~――ぬおぉ~~~~~~~~~~~~――」

 ベッドにうつ伏せて枕に顔を埋め、体を左右に揺らしながら彼女は悶えていた。

「お姉ぇうっさい! ちょっと静かにしてくんない!?」

 机に向かって夏休みの宿題と格闘していた香乃(かの)は堪らず抗議を口にする。

「さっきから『あー』とか『うー』とか全然集中できないんだけど!」

「なんだアンタいたの?」

「さっきからいるし! てかあたしの部屋でもあるし!」

「もぉ~おっきな声出さないでよ、うっさいなぁ~」

「それあたしの台詞だから! ――まったく、自分だけの部屋が欲しいよ……」

 別に姉との仲が悪いわけではないがプライバシーは守られるべきだと思うし、今回のように珍しく勉強へのやる気を出しているときに邪魔をされるのは甚だ遺憾なのである。

 だが不平不満を言っても部屋数が増えるわけでもなし、穏便に静寂を勝ち取るため、妹の務めとして姉の精神ケアをしてやることにした。

「で、どしたの? またフラれたの?」

「フラれてないし。てかフラれたことなんて1度もないから」

 体を起こした姉は枕を抱えて澄まし顔だ。

「じゃあなんで呻ってたの? 詩乃(しの)姉ぇのことだから悩みなんてどうせ男のコトでしょ?」

「そういうのじゃないから! ウチ(イコール)男のコトとか偏見もいいとこだし!」

 整った眉を吊り上げて詩乃は吠える。しかしこの姉が旗色が悪くなると大きな声を出すのはいつものことだ。香乃が怯むことはない。

 姉妹で恋愛相談するのも珍しいことではなく、だからその悪癖も香乃は理解していた。

「でもお姉ぇっていっつも男つまみ食いしてるでしょ?」

「ばっ――! そういう言い方しないでくれる!? ウチが男遊びしてるみたいじゃん!」

「事実でしょ? 男とっかえひっかえしてデートしてさぁ」

「デートしてるだけだもん。それ以上はなにもしてないもん」

「だから誰とでもデートしてるのがつまみ食いだって言ってるんだって。お姉ぇが『それ以上』のつもりじゃなくてもイロイロしてんでしょ? 胸触らせたりとかなんかエロいことやってんでしょ?」

 強い語調で問いただすと、詩乃は指先で巻き髪を弄んだ。

「さ、触らせてないしっ。ウチの胸はそんな安くないしっ。…………ちょっと押し当てたりはするけど」

「ビッチめ」

 吐き捨てるように言った。

「香乃! アンタ姉に向かってなんて口の利き方してんの!?」

「ビッチをビッチって言ってなにが悪いんですかぁ~」

「ウチのは恋愛テクだから!」

「はいはい、ビッチの言い訳ぇ~」

 香乃は肩を竦めて詩乃の抗弁をスルーした。

 そして腕を組み、据わった目を向けて声を低くする。

「ったく、お姉ぇはすぐ男に色目使うからタチ悪いよ、ホント。あたしまだゆーくんのこと許してないんだからね?」

 『ゆーくん』とは香乃の中学のクラスメイトで、彼女が特に親しくしていた男子生徒のことだ。1度だけ家に連れてきたことがある。

 その名を口にすると姉の肩がビクリと跳ねた。目を泳がせ、声に覇気がなくなる。

「あ、あれはゆーくんが勝手にウチのこと好きになっただけで――」

「『だけ』じゃないでしょ!? ちゃっかりデートしてたじゃん! そんでいつもどおり初デートでフッてさぁ! あたしあれからゆーくんに避けられてんだからね!?」

「だからそれはもう何回も謝ってるじゃ~ん! 許してよ香乃ぉ~!」

 ベッドの上で土下座のポーズをとる姉を見て、香乃は大きくため息をついた。

「もういいよ……。や、よくはないけどもうこの話は終わりにしてあげるから、その代わり今度はあたしの相談に乗ってよ」

 なんだかもう宿題をする気も失せてしまった。

「別に相談聞いてもらった覚えはないんだけど……ま、いいよ、話してみ?」

 威厳を保てると思ったのか、顔を上げて姉面をする詩乃。

「あんがと。やっぱ恋愛絡みなんだけどさぁ――」

 そう前置きしてから香乃は続けた。

「三股してるのがバレそうなんだけどどうしたらいいかなぁ?」

「アンタの方がよっぽどビッチじゃん!!」

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