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第109話 これはデートですか?⑨

 テーブルを挟んで向かい合わせの詞幸(ふみゆき)御言(みこと)。そして愛音(あいね)は御言の隣にちょこんと座った。

「ごめんなさい、愛音ちゃん。わたくし先ほど気づいていたのに知らんぷりしてしまって……」

「いや、別に、気にしてないぞ、うん。むしろ普通だろ、こういう状況なんだからな、うん」

 居心地が悪そうに首を竦める。

 そんな愛音の態度を見かねてか、御言は殊更に明るい声を出した。

「サロペット姿に帽子とサングラスで顔を隠すなんて、なんだかハリウッドセレブの子供みたいなファッションですね、うふふふふっ」

 そんな褒めているのか貶しているのか微妙な例えにも、愛音は反応しなかった。

「ア、アタシやっぱり帰る!」

「待ってくださいっ」

 腰を浮かせかけた愛音の手を取る御言。

「お友達を一人で帰すなんて、そんなことできません」

「……気を遣わなくてもいいんだぞ?」

「気を遣うだなんて……そんなことありませんよ。どうしてそう思うのですか?」

 すると愛音は拗ねたように唇を尖らせた。

「だって………………デートの邪魔したくないし……空気読めないヤツみたいでヤだし…………。なー、ミミ、ふーみん。折角のデートなんだから、本当は二人きりの方がいいんだろ?」

 御言と詞幸の顔を交互に見て力なく言った。

「それは――――」

 頬に手を当ててそう言ったきり御言は答えず、愛音から視線を転じた。なにかを期待するように黙したままじっと詞幸を見つめている。

 返答は任せるということだろう。

(俺!? 俺が答えるの!?)

 愛音も御言の視線を追って詞幸に双眸を向けた。

 その瞳が不安げに揺れる。

(えー…………これ、どう答えるのが正解なんだろ……………………?)

 明らかに御言は詞幸を試そうとしていた。

 今日の御言はどこかおかしい。詞幸が『デートだ』と言えば否定するし、『デートじゃない』と言えば怒るのである。

 定石であれば『デートだから二人きりがいい』と言うのが正解なのだろうが、愛音を連れてきたのが御言本人なのだ。それを無下にするような対応を取るべきではないし、久しぶりに愛音と過ごす時間を手放したくもない。

 ならば、『デートじゃないから二人きりじゃなくていい』と言うべきなのだろうか?

(落ち着け、落ち着いて考えるんだ月見里(やまなし)詞幸。上ノ宮(かみのみや)さんの態度は確かにわかりづらくて難解だけど、でも、『デートだ』と言うべきか言わないべきかはわかるはずだ)

 しかし、考えれば考えるほど、どちらが正解でもおかしくない気がしてくる。

 また、『デートだ』と言うと、愛音の誤解を強固にしてしまう恐れが出てきてしまう。言ってしまえば、愛音は二人の仲を取り持とうとさらにお節介を焼くだろう。

 すると、当然のことながら愛音との距離を縮めることが難しくなってしまう。ほかに好きな相手がいると知って、そんな男からのアプローチを受けるはずもないからだ。

 誤解は誤解なのだから、早い内に解くべきで、そうしなければ同じようなことが繰り返されるだろう。

 だが、だからといって御言の前でそれをするのも憚られる。愛音が御言に詞幸のことをどう伝えているかはわからないが、今日の一件は詞幸が率先して動いたと御言は認識いているようで、それを『上ノ宮さんを誘うつもりはなかった』などと否定できようはずもない。

(あああああああ! どうすればいいんだあああああああ!!)

 『デートだから二人きりがいい』と言えば、御言との関係は悪化しないが、愛音の誤解は解けず、これ以上の進展がない可能性もある。

 『デートじゃないから二人きりじゃなくていい』は、そもそも御言の前で言いづらいが、愛音は帰らなくて済むし、彼女の誤解を解くきっかけにもなる。しかし御言との仲は確実に悪化するだろうし、愛音が嘘を言って御言を騙したと知れれば二人が不仲になる恐れすらある。

(ぬわああ! あちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たないいい!!)

 脳髄が焼き切れるような激しい懊悩と逡巡を数秒の内に繰り返す。

 やがて、頭に痺れを感じながらも、彼は微笑みを浮かべて口を開いた。

「もう帰るなんて寂しいこと言わないでよ、愛音さん。愛音さんが協力してくれたから楽しいデートができたんだからさ。お礼も兼ねて、ここからは3人で仲良く楽しもうよ。ね、上ノ宮さん?」

「は、はいっ、もちろんですっ。愛音ちゃんをのけ者になんてするわけないですっ」

「お前ら…………やっぱいいヤツだな!」

 笑い合う二人にほっと胸を撫で下ろす。

 第3の選択肢『デートだけど二人きりじゃなくていい』。

(苦し紛れの折衷案だったけど、パーフェクトコミュニケーションだったんじゃないかな!)

 誤解は深まってしまっただろうが、誰かが傷つくよりも断然いい着地と言えるだろう。

「それにしても、詞幸くんは今日のこれをデートだと思っていたのですねっ。わたくしは全然まったく微塵もそんな風に思っていませんでしたけれどっ。まぁまぁ楽しいですし? 貴方がデートだと言いたいのならそういうことにしてあげてもいいですよっ?」

「よかったなふーみん! 褒められてるぞ! これからもアタシが協力してやるからな!」

 本当にこれで良かったのだろうか、詞幸は早くも後悔しかけていた。

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