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第107話 これはデートですか?⑦

「オススメのお店があるのです。よかったら行ってみませんか?」

 と、御言(みこと)に連れられてやって来たのはチョコレート専門店だった。

 ドアをくぐるときに(外観からして大人な雰囲気だし高級そうだな)と詞幸(ふみゆき)は気後れしてしまったのだが、甘い香りの漂う店内には実際大人の女性が多く、庶民高校生の自分がいることが場違いに思えてならなかった。

 それはショーケースに並ぶ煌びやかでカラフルなチョコレートを見ても感じたことだ。

「チョコレート一つで、よ、400円だったよ!? こんな凄い店来たことないよ!」

 店の一角はカフェスペースになっており、チョコを使った種々のスイーツが楽しめるのだという。二人は端の席に陣取ったのだが、腰を落ち着けた途端に強張った表情でそう囁いた詞幸に、御言は思わず吹き出してしまった。

「うふふふふっ、そんなに緊張しなくてもよいのですよ。このお店でのお勘定はすべてわたくしが持ちますから」

「ええっ、そんなの悪いよっ」

「遠慮なさらないでください。ここに来たいと誘ったのはわたくしの方なのです。それに、チョコレートは幸せの味――共有する誰かがいてこそ、美味しく感じるものなのですから」

 そういうことならば、と詞幸はお言葉に甘えることにする。

 ほどなくしてやってきたチョコレートパフェは芸術的だった。

 逆円錐型の透明なグラスに、カカオ濃度の異なる2種のチョコアイス、チョコクランチ、チョコマカロンが生クリームと共に上品に盛られ、キャメルソースが五線譜のように美しく線を描き、最上段には羽根のような薄いチョコが飾られている。

「はぁ~~~~幸せです~~~~」

 その芳醇な甘さを味わい、柔和に微笑む御言。先ほどまでの荒れた感情はすでに凪いだらしい。

「それにしてもよかったよ。落ち着いてくれて」

 詞幸もその美味しさに気が緩んだのだろう。余計な一言を口にしてしまった。

「今日の上ノ宮(かみのみや)さん、なんかいつもと違ってたからさ」

「さきほどわたくし『その話はもう終わりにしてください』と言いましたよね、聞いていなかったのですか? 貴方の言動には思うところがあるのですが折角のお出かけですので大人の対応として矛を収めているだけということに気づかないのですか? わたくしも粗相をしたという自覚はあるので罪滅ぼしの意味も込めてこのようにご馳走して差し上げようという意思を察してはくれないのですね。わたくしの意志をすべて汲めとは言いませんが――」

「わかったごめん完全に俺が悪かった!」

 抑揚のない平淡な声で、かつ早口で発せられる御言の言葉は、感情が乗っていない分余計に怖かった。

 しかもこれ以上ないほどの笑顔なのだ。

(怖あああああぁぁぁ! まだめっちゃ怒ってるよ!)

 彼は取り繕うように曖昧な笑みを浮かべて「と、ところでさ」と話を逸らすことにした。

「俺の……ドッペルゲンガーのことなんだけど、まだ近くにいるのかな?」

「ああ、そのことですか?」

 通常の微笑みに戻った御言が外に視線を移す。

 詞幸はそのときまで気づいていなかったのだが、カフェスペースは大きなカラス張りになっており、外からも内からも視認性が抜群だった。

「すぐそこにいますね」

「ヤバいじゃん! 俺外見らんないよ!」

「物欲しそうにこちらを見ています」

「ドッペルゲンガーもパフェ食べたいの!?」

「…………なんだか、ドッペちゃんに悪い気がしてきました……」

「ドッペちゃん!? 随分気安い感じだね!」

「やっぱりドッペちゃんのこと呼んできます」

 そう言って御言が立ち上がったので詞幸は狼狽えた。

「ここに呼ぶの!?」

「はい。相席しようかと」

「そしたら俺死ぬんだけど!」

「死にはしませんよ。息は止まるかもしれませんが。うふふふふふふっ」

(やっぱりめちゃくちゃ怒ってる!)

 自分の死を嘲り笑う彼女に戦慄してしまう。

「ではちょっと席を外しますね?」

「あっ、ちょ、ちょっと上ノ宮さん!」

 制止の声も虚しく、御言は店の外へと行ってしまった。

(どどどどうしよう! このままだと俺が俺に殺されちゃう!)

 いまの内にトイレにでも逃げ込むべきか、それとも店外に出て反対方向に走り去るべきか――

 しかし、逡巡している間に猶予は過ぎ去ってしまった。

「お待たせしました、詞幸くん。連れてきましたよ」

「――――――」

 御言が手を引いてきた存在を視界に入れた瞬間、詞幸の息は本当に止まった。

「よ、よう、ふーみん……」

 バツが悪そうに顔を背けて、愛音(あいね)は控えめに片手を挙げた。

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