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第101話 これはデートですか?①

 待ち合わせ場所の駅前には約束の時間より30分も早く着いてしまった。

 容赦ない夏の陽射しから一刻も早く逃れようと、多くの人が足早に行き交っている。

 家を出る前からバクバクと跳ねていた心臓は、電車を降りる頃には胸を突き破りそうなほどのじゃじゃ馬と化した。

 ビルの陰で南中を通り過ぎた太陽から身を隠していた詞幸(ふみゆき)は、もう何度目になるかわからない身だしなみのチェックをウインドウに映る自分で行う。

「よっし、大丈夫っ」

 毛先の向きまで入念に調整し、自分に言い聞かせるように大きく頷いた。

 彼の装いは気合の入ったもので、念入りにアイロンがけしたシャツには皺ひとつなく、普段は付けないネックレスまでしている。

 何時間も悩んだ末に行きついた、彼の持つ服の中で最もオシャレなコーディネートだ。

「ふあっ――」

 あくびを噛み殺し、寝不足気味な眼を擦る。どんなに緊張していても生理現象はそのままらしい。

 実は詞幸は3時間しか寝ていない。彼は愛音(あいね)からの連絡が来たときから終始興奮しており、とても眠れるような状態ではなかったのである。

 これからの大一番を前にして、万全なコンディションとは言えない状況だ。

(だけど、その甲斐あってデートプランはバッチリ! 愛音さんの要望に合わせて自在に対応できるように何パターンもデートコースを用意した! 海に沈む夕陽、煌びやかな夜景、溢れる星空に咲き誇る花火、どんなロマンチック展開もシミュレート済みだ!)

 そのために、自室のクローゼットに隠していた虎の子の貯金箱も開帳した。

 すべては今日、夏休み最高の思い出を作るため。

 この胸の想いを成就させるためである。

 それにしても、と詞幸は思う。

(まさか愛音さんの方から誘ってくるなんてねえ。いままで一度もそんなそぶり見せたこともなかったのに)

 全てが無駄だったとは言わないが、愛音の反応は恋や愛を感じさせるものではなく、ときにはそっけないほどで、てっきり自分のアプローチはほとんどが空振りだと思っていたのだ。

(でも今日は二人っきり――くふっ、くふふふふふふっ)

 思わず顔がにやけてしまう、

(今日のデートのお誘いをいきなり前日にしてくるなんて……それってやっぱり、俺と同じように会えない時間が寂しくて我慢できなかったってことだよね!)

 大切な人から必要とされる。それはなんて幸せなことだろうか。

 なぜだか無性にこの世界の全てにありがとうと言いたい気分だった。

(ああー、愛音さん早く来ないかなあー)

 彼はその矮躯を絶対に見落とすまいと、やや視線を落として雑踏を眺めていた。

「お待たせしましたー」

 だから、彼女から声を掛けられるまで、その存在に気づかなかった。

「うふふっ、今日はよろしくお願いしますね、詞幸くん」

「!?!?!?」

 そこにいたのは愛音ではなく、隣クラスの同級生であり、話術部の部長――上ノ宮御言(かみのみやみこと)であった。

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