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金髪碧眼の麗しい令嬢イザベルが、無実の罪で婚約破棄に追い込まれるのも時間の問題だろう。そんな噂が囁かれるようになった頃、タイミング悪くイザベルが通う学園で卒業ダンスパーティーが開催された。
それは作為的にイザベルを嵌めるのに、うってつけのシチュエーションだった。
「きゃあっ! やめて下さいな、イザベル様。わたくしの大切なネックレスをどうしてこんな風に引きちぎるのです? なんで、なんで、なんでなのっ。そこまでしてわたくしに嫉妬しているのですかっ? きっとわたくしに嫉妬するあまり、首を絞めて殺そうとしたのねっ」
ダンス会場でドリンクを配るお手伝いをして欲しい、そう頼まれてイザベルがミーアスと二人っきりになったのが運の尽き。突然ミーアスは給湯室から駆け出して、自らネックレスを大声をあげながら突然引きちぎった。そして、その行為は自作自演であるにも関わらず、全てイザベルが行ったと騒ぎ始める。
さらに虚言はエスカレートしていき、ミーアスを殺そうとしたという罪を捏造し出した。
「えっ……言い掛かりはやめて下さいな。あなたが興奮して、自らネックレスを引きちぎったのでしょう」
「違うもん、全部ぜんぶ、あんたが悪いんだもの。ねえ、皆様聞いて! 男爵令嬢イザベルは、小癪な手を使ってお告げを操作しているのよっ。自分がアル様の妻になれるように、裏で神殿と繋がっているのっ。ねぇ早く殺してよ、この女を殺してよぉっ」
癇癪を起こし泣き叫ぶミーアスに『またか』と呆れる者もいたが、王太子の命の恩人である聖女ミーアスに逆える者など誰もいない。
「ミーアス様、お言葉ですが。ミーアス様がご自分で、ネックレスをちぎったように見えたと証言する者が……」
「はぁああっ? わたくしが嘘をついていると仰るの。早くイザベルを……殺して殺して、殺して、殺して、殺して、殺してぇえええええっ……! でないと、アンタ達も全員死ぬように呪うわよっ。わたくしは命を司る聖女なんだからぁあああっ」
「誰かぁあっ、ミーアス様を医務室へ。イザベル嬢の罪は、必ずや国家の権威をもって裁きますから」
やがて虚偽の発言は『真実』となり、イザベルは暗殺未遂の容疑をかけられてしまう。
(ミーアスの精神状態はあまりにも酷くて、異常を通り越して……ただの悪魔だわ。なのに何故、みんな彼女の言いなりなの?)
良識のある人間が一人でもこの場にいれば、イザベルを多少なりとも庇ったかも知れない。あいにく、ほとんどの民衆が良識を捨てて、ミーアス側についていた。
同窓生達が見守るパーティー会場で、イザベルは婚約破棄を言い渡される。それは王太子アルディアスが、イザベルを裏切りミーアスを選んだ瞬間だった。
「今日をもってイザベル・カエラートとの婚約は破棄とし、イザベルを聖女暗殺未遂の疑いで魔女裁判にかけるっ」
「そ、そんな……! 私、聖女ミーアスに対して、何もしておりませんわっ」
その婚約破棄宣言はイザベルの命さえ奪いかねない、非情な宣告なのであった。