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隙間時間に気軽に読める文字数の異世界恋愛作品にしていきたいです。一話あたりの文字数は、1000文字から1500文字前後に調整しております。
「精霊様、今日も日々の食事に感謝致します。平和な一日が過ごせるようにお守りください」
「おや、イザベルさん。今日も精霊様にお祈りかい? 精霊像の前の掃除もして偉いねぇ」
「ええ、精霊様にはいつも守ってもらっているのだから、これくらいはしないと」
深い森の中で一人の若く美しい娘が、精霊神の像を丁寧に磨いていた。彼女の名はイザベル・カエラート。男爵の娘で、見目麗しく心まで清らかな乙女である。最近の若者にしては珍しく、古い時代の民のように精霊様への信仰が厚い。
* * *
西方大陸の小国家バルディアは、古い神々への信仰を未だに続けている稀有な国家だ。長きに渡り歴代の王太子の花嫁は、精霊神からのお告げによって選ばれる。
銀髪の美青年『第二王子アルディアス』の花嫁は金髪碧眼の麗しい男爵令嬢のイザベル・カエラートだとされていた。
「精霊神のお告げにより、王太子アルディアス様の妻となるのは、イザベル・カエラート嬢に決定致しました!」
「わぁ! やはりあの麗しいご令嬢がアルディアス様の妻となるのね」
「イザベルは精霊様への信仰も厚く素晴らしい方。これで我がバルディアも安泰だな」
国民に祝福されて、誰もが羨むカップルとなったアルディアスとイザベル。
「可愛いイザベル、僕は精霊様に感謝するよ。こんな素敵な女性と結婚出来るのだから」
「アルディアス様、私も嬉しいです。精霊様に毎日お祈りをしていて良かった」
王太子アルディアスもイザベルを大切にすると誓い、それは永遠にも似たものだと思われていた。
だがそれはもう過去の話、王太子は運命的な出会いにより黒髪碧眼の聖女ミーアスを愛するようになり、イザベルは疎まれる存在となった。
瀕死の怪我をした王太子は、聖女ミーアスの不思議な治癒術がなければ既にこの世から去っていたはずだ。王国は恩を返すためにミーアスに特別な地位を与えて、王太子とも仲を深めていった。
困ったことに、聖女ミーアスは時折癇癪を起こす。強大な魔力に精神面が追いつかず、次第にミーアスは聖女ではなく悪魔のようになっていく。
「なんで、なんで、なんでなの! どうしてアル様の花嫁が、あのイザベルなのよっ。アル様と運命の赤い糸で結ばれているのは、このミーアスですわっ。一体誰がアル様のお怪我を治したと思っているの? この私、聖女ミーアスでしょう?」
「落ち着くんだ、ミーアス。キミが命の恩人なのは充分承知だが、我が国は精霊様のお告げが全て。よっぽどのことがない限り、婚約破棄など出来ない」
「ふぅん……よっぽど、ね」
清純で可愛いらしいミーアスに裏の顔があるとは知らぬ王太子は、今抱きしめている『新しい恋人ミーアス』が黒い笑みを零していることすら気づかなかった。