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090 四国攻め

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 090 四国攻め

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 大永九年正月。(一五二五年)


 帝への新年の挨拶が終わり、内裏の俺に与えられた部屋でホッと息を吐く。

 昨年は仮御所が完成していなかったが、今年は真新しい仮御所で新年を迎えることができた。帝は大変喜んでいたな。

 白湯を飲むと、胃の中が温かい。


「相国様。よろしいでしょうか」

「構わん」

 障子がスーッと開き、弟の武田信房が頭を下げた。信房は還俗したが今だに頭を剃っている。


「どうした?」

「それが……」

 信房が言い淀むと、その後ろから人が現れた。


「っ!?」

 その人物の姿を見た俺は、すぐに場を譲り佇まいを正した。


「休んでいるところ済まぬな」

「帝御自らこのような場にお越しとは、さすがに驚きましてございまする」

 俺が頭を下げたのは、後柏原天皇である。

 しかも供がいない。五摂家や親しい勧修寺様などさえお連れになっていない。

 何事だ……?


「相国を驚かさせたか。ほほほ。朕も捨てたものではないの」

「お戯れを」

 さすがに驚いたが、俺のことよりも帝のことだ。

 わざわざ俺のところへ帝自らやってきたのは、どんな理由からだ?


「相国のおかげで、今年は真新しい仮御所で新年を迎えられた。本当に感謝しておる」

「はっ。勿体なきお言葉にご座いまする」

「また、昨年は三好を降ろしたとか。これで畿内は安定するであろう」

「そうなりますよう、鋭意努力いたしておるところにご座いまする」

 そのような話をしに来たのではないと思うが……さて、どのような話が飛び出すことやら。


「朕は即位しても即位の礼さえできなかった」

 返事に困るんですが?


「次の者にはそのような惨めな思いをさせとうない」

 ……そういうことか。


「朕は退位を考えておる」

 やっぱり……か。


「驚かぬのか?」

「驚いておりまする」

「信じてくれるか?」

「帝のお言葉を疑うことはご座いませぬ」

「では、退位をしてもよいな」

「……五摂家の方々とお諮りになられるのがよろしいかと」

「この国を動かしておるのは、相国だ。相国がいいと言えば、誰も否とは申さぬであろう」

「そのようなことはご座いません。某は帝に成り代わり政を行っているだけにて、帝の即位退位を語るなど以ての外。どうか五摂家の方々と諮っていただきたく」


 後柏原天皇はすでに六〇を超えておられる。在位も二十数年とそこそこ長い。


「相国がそう申すなら、皆と諮ろう」

「はっ。お聞き届けくださり、感謝の言葉もご座いませぬ」

 帝は部屋を出て行った。

 衣擦れの音に哀愁がこもっているように聞こえた。

 ご苦労されたんだろうな……。


「信房」

「は、はい!?」

 信房も今の話に心が乱れているようだ。


「すぐに信賢叔父上にこのことを伝えよ。ただし、叔父上以外の者には決して洩らすな。分ったな」

「はい。承知しました」

 さて、俺は俺で五摂家の方々にこの話をしないとな。


 部屋から出ると、工事中の建物が見えた。

 内裏は改築や修復工事があちらこちらで行われている。さすがに今は皆休んでいるが、数日後には工事が再開されるだろう。

 京の都も活気が戻ってきていいる。

 帝はそれを肌で感じ、退位を決意されたのかもしれないな。





 大永九年一月八日。(一五二五年)


 昨年末、相談役の長尾景長が職を辞して一郎の守役に専念することになった。

 現在の相談役は、板垣信方と織田信定の二人だけになってしまった。


 信方は俺の最初の家臣で、最も信頼する者だ。武にも文にも通じており、その能力は高い。

 信定は武よりは文が先に来る。あの織田信長の祖父であり、織田弾正忠家の礎を築いた人物なだけあって、細かいことにも気づく男だ。

 二人の能力に不満はないが、さすがに仕事量が多いからな。それを考えると、相談役を増員しないといけないだろう。

 そこで俺は、二人を相談役にする人事を行った。


曽根縄長(そねつななが)。そのほうに相談役を命じる」

「ありがたき幸せにございまする」

 曽根縄長が家督を継いだのは二年前の大永七年だが、つき合いは結構長い。俺が家督を継ぐ前から従ってくれていて、叔父や今井、大井の謀反時にも従軍した忠臣だ。


浪岡具永(なみおかともなが)を相談役に任じる」

「望外の喜びにございまする」

 浪岡具永は津軽の浪岡を治めていたのを召し抱え、今までは外交方で働いてもらっていたのを、相談役に異動させた。


 これで相談役は四人になった。

 甲斐からの譜代が二人と外様が二人だ。


「さて、新しい相談役が増えたことだし、現状について確認するとしよう。信方」

「はっ」

 板垣信方によって、現状の確認が行われる。


 畿内の支配権は太政府にある。まだ治め始めたばかりで、表面的に従っている国人も多いことだろう。紀伊も同じだな。


 山陰方面は丹波はほぼ支配下に置いた。丹後、但馬より西はまだまだだ。


 山陽方面は播磨の調略が進んでいる。備前にも調略は進んでいて、こちらはぼちぼちだ。


 四国について、残るは伊予の宇都宮と河野。土佐は津野と安芸を降ろすだけだ。

 主だった四国の勢力としては、阿波と讃岐は三好。伊予は西園寺、宇都宮、河野。土佐は一条、津野、山本、安芸、長宗我部。

 土佐一条家の当主である一条房家様が声をかけてくれたことで、伊予の西園寺と土佐の長宗我部、山本は太政府に従った。これらの家は防御を固めていればよく、特に兵を出す必要はない。


 尾張では城を築いている最中で、城ができればそこを武田の本拠地にする。


 公家との繋がりは、近衛家と九条家の姫が俺の正室を出し、二条家の姫が嫡男五郎と婚約、鷹司家の嫡子と俺の妹の日菜子が結婚、一条家とも妹の桜子が結婚した。

 武田は五摂家全てと縁を結んでいる。今も公家から色々な縁談が持ち込まれる。


 各軍団については……。

 ・直営軍 : 兵力二万。武田信虎が軍団長。半数の一万は山城に駐留。半数の一万は弟信貞が軍団長代理として若狭に駐留し、丹後に睨みを効かせている。

 ・第一軍団 : 兵力二万。叔父武田縄信が軍団長。現在は磐城に帰還している。

 ・第二軍団 : 兵力二万。板垣信泰が軍団長。現在は三河に帰還している。

 ・第三軍団 : 兵力一万五〇〇〇。原友胤が軍団長。現在は丹後に配置し、丹後の平定をしながら山陽・山陰方面に睨みを効かせている。

 ・第四軍団 : 兵力一万五〇〇〇。海野棟綱が軍団長。現在は信濃に帰還している。

 ・第五軍団 : 兵力二万。武田信守(越中武田)が軍団長。越中に駐留し加賀の一向衆に睨みを効かせている。

 ・第六軍団 : 兵力一万五〇〇〇。諏訪頼満が軍団長。信濃に帰還している。

 ・第七軍団 : 兵力一万五〇〇〇。金丸虎義が軍団長。武蔵に帰還している。

 ・第八軍団 : 兵力一万五〇〇〇。工藤虎豊が軍団長。阿波に駐留。現在は人員補充しながら伊予を牽制。

 ・第九軍団 : 兵力一万五〇〇〇。北条高定が軍団長。阿波に駐留。現在は阿波と讃岐を平定中。

 ・第一〇軍団 : 兵力一万五〇〇〇。今井信元が軍団長。摂津に駐留。山陽方面に睨みを効かせている。

 ・第一一軍団 : 兵力一万五〇〇〇。松平親善が軍団長。讃岐に駐留。現在は人員補充しながら土佐を牽制。

 ・太平洋艦隊 : 大型駕臨船(がりんせん)三〇隻。土屋貞綱が艦隊司令官。小田原を本拠地に、東北から東海までを管轄。

 ・日本海艦隊 : 大型駕臨船(がりんせん)四〇隻。柿崎利家が艦隊司令官。越後直江津を本拠地に、東北から若狭までを管轄。

 ・志摩水軍 : 大型駕臨船(がりんせん)五隻。九鬼泰隆が水軍長。志摩を本拠地に、東海から四国沖、九州まで管轄。

 ・紀伊水軍 : 大型駕臨船(がりんせん)五隻。津田算長が水軍長。紀伊を本拠地に、紀伊から瀬戸内を管轄。

 ・村上水軍(仮) : 大型駕臨船(がりんせん)一隻。村上康吉が水軍長。瀬戸内(能島・来島・因島)を本拠地に、瀬戸内西部から九州北部を管轄。

 ※艦隊司令官のほうが水軍長よりも格は上。


 今後の方針・目標は明確だ。

 ・畿内の安定

 ・内裏の修復

 ・尾張の城の完成

 ・四国平定 ⇒ 中国征伐 ⇒ 九州征伐

 ・大内の族滅

 ・一向衆の壊滅(加賀他)

 ・他の反太政府勢力の駆逐


「弥生(三月)には伊予と土佐攻めが始まります。早ければ夏にも四国を平定することでしょうが、周防の大内、豊後の大友の出方次第では、長引くやもしれませぬ」


「山陰では尼子が臣従しており、大内と小競り合いをしております」


「播磨の調略は進んでおり、小寺や別所などが臣従しております」


「丹後の一色は、足利義賢殿の工作が効いており、家中がかなり割れております。赤松と山名もかなり動揺しております」


「本願寺実如は大内を頼って周防に入ってございます。安芸は本願寺の勢力が強い国なれば、その門徒を扇動して太政府と戦う構えにございまする」


 やるべきことは色々ある。

 俺はひとつひとつを潰していき、粛々と日ノ本を統一するまでだ。


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク』と『いいね』と『レビュー』をよろしくです。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「後柏原天皇」というのは追号、いわゆる戒名みたいなものだから存命中に呼ぶのは違和感。 転生者主人公がその史実を知っているのはともかく、「主上」または「のちに言われる~」の方が良いと思う…
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