084 畿内平定
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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084 畿内平定
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大永七年一〇月二〇日。(一五二三年)
一〇月の始めに家族を京の都に呼んだ。しばらく京の都でやることがあるからだ。
ただ、勧修寺殿、九条殿、楠浦殿が子供を産んでくれたため、三人とその子たちはまだ小田原に留めている。
勧修寺殿の子が四女の久子、九条殿の子が八男の八郎、楠浦殿の子が九男の九郎だ。
皆元気にすくすくと育っていると聞いている。早く会いたいものだ。
京の都の復興と並行して武田屋敷を新しく築くことになった。
今の屋敷は防衛のしやすさを求めたもので、風流というものがないらしい。俺はそんなこと気にしないが、叔父信賢が気にしろと言うので建てることにした。
建築は叔父信賢や妻たちに任せているんだが、五摂家の方々まで口を挟んでいるらしい。好きにしてくれ。
同時に尾張に城を築いている。一時中断していたが、太政府を置く城だから、早めに完成させたいところだ。
母上や妻たちと同時に鷹司忠冬様と妹日菜子夫婦も京の都へやってきている。二人は鷹司家の屋敷で暮らし始めている。
心配だった鷹司忠冬様の体調だが、とても健康に見える。子供も男の子が二人いて夫婦仲も良い。
来年はめでたいことが続く。越中武田家の小夜が佐竹義篤と婚儀を挙げるのだ。越中武田家は加賀の一向衆を抑える役目があるから、当主信守の兄である信貞が当主代理として小夜の婚儀に出席することになっている。
本来は信貞(俺の弟ではない従兄の信貞)が当主だったのだが、俺との戦で右腕を失ったことで家督を弟の信守に譲ったのだ。以降は金山奉行として粉骨砕身働いてくれている。信貞にもそれなりの褒美を与えないといけないな。
さらに俺の末妹の桜子が一条家に嫁ぐ。一条房通と婚儀だ。
これで全ての摂関家と縁を結んだことになるが、まさかこんなことになるとは、さすがに思っていなかった。ありがたいことだ。
政治のほうは順調で、日和見していた大名や国人が挨拶にくるようになった。もっとも領地は半分召し上げるけどな。遅いんだよ、お前たち。
縁側の板をしっかり踏み込み進んでいると、小姓が障子を開けた。部屋に入ると重臣たちが待っていた。
「待たせたな」
皆が平伏する中、俺は上座にどさりと腰を下ろす。
「久秀。茶を頼む」
「承知しました」
久秀はすぐに茶を持ってきた。予め用意していたようだ。目端の利く奴だ。
重臣たちの前にも茶が置かれ、俺が飲むと皆も口をつける。駿河の緑茶だ。美味い。
「さて、皆に集まってもらったのは、これからのことだ」
「山陰、山陽、そして四国。どこを攻めるかということですな」
板垣信方の確認に頷く。
山陰は日本海側の中国地方のこと。山名や尼子と言った勢力がいる。
山陽は瀬戸内側の中国地方のこと。赤松など細かな勢力がいる。
四国は言わずと知れた、三好の本拠地。
どの方面も大した敵はいない。中国地方の雄、大内もカスでしかない。
三好は畿内の勢力を失った。淡路も俺の勢力下だ。四国の勢力だけなら大したことない。三好は死を待つだけの存在だ。
「三好と大内、大友が手を結ぶとさすがに厄介ですな」
「氏綱(伊勢氏綱)の言う通りだが、瀬戸内の通行が自由にできるようになった。奴らがどのような連携をしようと、海は我らのものだ。分断は難しくない」
中国の大内、四国の三好、九州の大友。これらの勢力の間には海がある。村上水軍のおかげで瀬戸内の要所を押さえることができるようになった。海軍力は武田が圧倒的だ。
「でしたら四国を攻めるべきと存じます」
真田頼昌はさらに続ける。
「三好を滅ぼし、その勢いのまま四国を平定。そこから中国と九州に圧力をかけるべきです」
「某も四国攻めに賛成です。四国を取ることで三好を気にせず、中国、九州を攻めることができますゆえ」
西村正利も四国攻めに賛成か。
「四国攻めを行うのは、賛成にございます。その上で九州の者たちに大内と大友を抑えさせましょう。菊池、阿蘇、伊東、少弐など大友や大内と領地を接する者には、領境に兵を集めさせます。決して攻め込ませません。砦を築き、兵を置くだけで構わないでしょう。それだけで牽制になります」
九州各地の大名・国人の多くは太政府に恭順の意を表している。大内と大友のような大名は足利に殉ずる心づもりのようだが、この二家以外はほとんど俺のところにやってきた。
九州の大きな家は、大内と大友以外に肝付がいる。残念ながら肝付兼続は俺のところにはやってこなかった。琉球貿易では薩摩の港に立ち寄る必要があるから、肝付が支配しているとよくない。早めに肝付をなんとかしたい。
四国を平定したら、四国から肝付の大隈や薩摩へ出陣することも可能になるだろう。
「三好征伐及び四国平定に反対意見はないようです。相国様、よろしいでしょうか?」
長尾景長が重臣たちの考えをまとめ、俺に確認した。
「問題ない。軍略方は四国平定の策をまとめよ。出陣は来年三月だ」
「「「「はっ」」」」
四国攻めが決まった。あとは軍略方が戦略と戦術を組み立てる。
その間に俺は畿内の安定に努める。京の都の復興も急務だ。
「信泰たちは他の軍団と交代だ」
「某は殿と共に」
「お前はよくても、兵らはそうもいかぬ。三河に戻って鋭気を養え」
「むう……」
「父上。殿ではなく、相国様ですぞ」
「むっ……分かっておるわ!」
俺の呼称について信方に指摘され、信泰はぷいっと顔を逸らした。俺は気にしてないのだが、示しがつかないと信方は言う。
呼び方が殿だろうが、相国だろうが、太政大臣だろうが、信泰が家臣の筆頭であるのは変わらない。
大永七年一〇月二五日。(一五二三年)
「問題は京の都の治安維持だな」
京の都には帝を始めとした公家が多く住む。地方へ下向していた公家も徐々に帰ってきている。これからも続々と帰って来るだろう。
俺が尾張に拠点を移した後でも、この山城には帝がお住まいになる。大事な場所だ。
「今後は武田の世であり、京の都は安全な土地でなければならない。どのように治安維持を心がけるかが問題になりましょう。そこで献策があります」
叔父信賢が京の都の治安について献策があると言う。
「京の都の治安維持を、各大名に負担させましょう」
「ほう、大名に負担か」
太政府が定めた大名の定義は石高が一万石以上あることだ。一万石未満は国人と呼ぶ。
「大名―――石高が一万石以上の者に、一万石当たり三〇名の警備兵を出させます」
叔父信賢の献策は大名に兵を出させ、それによって京の都の治安を維持しようというものだ。
「その上で検非違使を復古させますが、衛門府の管轄ではなく弾正台の管轄とし、山城全体の治安維持に当たらせます」
弾正台の管轄下に置き、山城全体の警備を検非違使にさせる。その検非違使の人員は各大名が石高に応じて出す。その経費は全て大名が負担するが、指揮権は弾正台にあるというものだ。
「国人はどうするのだ」
「一万石未満の国人には、負担させません」
「まあ妥当なところか……。で、太政府、いや、武田はどうするのだ?」
「太政府は三〇〇〇名の検非違使を畿内の直轄地から派遣します」
三〇〇〇なら大した負担ではない。しかも山城で兵を集めたら地元だから旅費なども不要だ。
戦がないなら三〇〇〇と大名からの兵だけで問題なく山城の治安維持は可能だろう。
「治部卿殿。大名への負担が少ないのではないでしょうか?」
信方が叔父信賢に質問した。
出兵なら一万石で三〇〇人の兵を率いるというのが一般的だ。それが三〇人の負担だから少なく感じてもおかしくはない。
一万石で三〇名。三〇万石の六角だと九〇〇名。多いようで少ない。
「派遣は常時。一時的なものではない。故にあまり数が多いと、不満が溜まりやすいでしょう」
「生かさず殺さずで、ございますか」
この制度は大名に一定の出費を促すものだ。江戸時代で言う参勤交代のようなものになるが、当主がわざわざやってくる必要はない。その代わりに京の都に屋敷を置き、そこに検非違使を住まわせて治安の維持に当たることになる。もちろん検非違使の指揮権は大名にない。
「それに検非違使としての最低限の装備を規定します。その装備に銭を使わせましょう」
「人員よりも装備に銭か。山城の警備ともなれば、公家の方々の目にも留まる。見窄らしいものでは武士が侮られるか。叔父上は相談役たちとその案をさらに詰めてくれ」
「承知しました」
やってみて不具合があるなら、その時に修正すればいい。
「次は某からの報告です」
望月虎益の報告だ。
「大坂御坊にいた織田達勝の行方を掴みました」
「まだ生きていたか?」
「はっ。なんともしぶとい男にございます。現在は海を渡って三好の本拠地である阿波に潜伏しておりました」
「三好が匿っているのか?」
「はい。山崎監物と名乗り、近江の浪人と称しております」
名前を変えれば逃げられると思っているのか。たとえ地獄だろうと、必ず見つけ出して報いを受けさせる。俺は知多の地獄を決して忘れないからな。
「目を離すな。どこへ逃げようとも逃げ切れないと思い知らせてやるのだ」
「承知いたしました」
暗殺なんてしないぞ。戦場で死ぬのは仕方ないが、そうでなかったら俺が殺してやる。
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