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070 東北統一

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 070 東北統一

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 大永五年五月一二日。(一五二一年)


 仙台はやがて伊達の本拠地になる土地だが、今はそうではない。

 わざわざこの仙台に入ったのは、ここに武田の拠点を築こうと思って下見も兼ねての行動だ

 さすがは東北最大の平野なだけはある。これだけの平野があるなら、開拓のし甲斐があるというものだ。

 米は国の基本。多ければ多いほど民を食べさせることができる。民が飢えないということは、一揆などは起こらないということ。さらに言えば、米の値が下がって民の口に入りやすいということ。

 米の値が下がると、俺たちのような大名や国人の収入が減る。だが、武田の領地では米以外の産業を興しているため、米の値が下がってもそれ以外の産物で収入ができる仕組みを作っている。それに、米は酒などの材料になるので、余るくらい生産したほうが儲けが出るのだ。

 地形的に米の生産に適さない場所も多いため、産業は極めて大事なものだ。そのことを理解している大名や国人は、ほとんどいない。そこが武田の強みである。


 仙台へ移動している途中に、和賀と稗貫が降伏したと報告を受けた。

 さらに、仙台に到着して三日後には小野寺が降伏し、由利十二頭の半分以上を潰した。

 ちなみに、由利十二頭の家の数は一二家ではない。実際には一四、五家くらいあったらしいが、残ったのは六家だけだ。

 五月も終わりに近づくと、斯波も降伏した。これで残るは安東のみとなった。


 俺は安東家の檜山城を攻めるために進軍。

 叔父縄信の第一軍団をさらに北上させ、南部と共に大館から西進させる。

 俺の本隊は甘利宗信の第三軍団と合流し、由利本庄から北上している。

 しかし、遠い。もう東北は満喫した。お腹いっぱいだ。


 次郎は酒田に置いてきた。武藤のごたごたのせいで、あの辺りは火種を抱えていて安定させるのに少し時間がかかる見込みだ。西村正利がかなり押さえ込んだようだが、よそ者の正利に反発する者もいると聞いている。

 酒田は貿易の拠点になることから、しっかりと押さえておきたいので次郎に収拾を任せた。


 俺は由利本荘から男鹿半島を横目に見てさらに北上。

 檜山城を囲むのは俺の本隊、第一軍団、第三軍団の武田の直営軍五万と、東北の諸侯軍約二万だ。

 安東というのは、檜山安東と湊安東に大きく分かれるらしい。有名な安東愛季(あんどうちかすえ)は、檜山安東の出身になる。

 どちらが本家か知らないが、檜山安東の血筋は大名として江戸時代に繋がっている。


「是非、某に先鋒をご命じくだされ!」


 伊達胤宗がいつになく熱い。やる気が空回りしなければいいと思う。胤宗がバカをすると、家臣たちが苦労するだろうから可哀そうだ。

 ただ、東北での主導権を得たい胤宗はグイグイ来る。


「いいだろう。伊達に先鋒を任せる」

「はっ、ありがたき幸せにございます」


 伊達が積極的だったので、大崎も積極的になるかと思ったが、大崎はそこまでか。

 まあ、伊達とは規模が違うし、家臣団の差もあるんだろう。だが、ここでやらないと、伊達の上に立てなくなるぞ。


 明朝から檜山城攻めが行われる。

 檜山川の南に建てられた檜山城は、山の上にある山城だ。かなり攻めにくい城だと思う。

 まずは先鋒の伊達が動き、攻め疲れたところで甘利の第三軍団に交代だ。

 山城なので大軍で攻め込めないのが、痛いところだな。


 翌朝、そろそろ日が昇る時間になった。

 伊達が日の出と共に檜山城に攻めかかるので、そろそろ動くだろう。

 俺は檜山城と米代川の中間地点に陣を張っている。米代川の西には能代湾があり、柿崎利家率いる第二海軍の艦隊が控えている。利家の第二海軍には補給を任せていてるので、今回は直接的な戦闘はない予定だ。


 日が昇り空が明るくなっていく。まだ喧騒は聞こえないが、時間の問題だろう。


「殿!」

「出羽か。どうした?」


 いつもは物静かな風間出羽守が、声を張っている。何かあったな。


「伊達殿、謀反にございます」

「「「っ!?」」」


 床几に座った板垣信方、真田頼昌、伊勢氏綱など、この場に居る者たちが腰を浮かせた。

 そうか、伊達が攻めてくるか……。

 そうだよな、ここで俺を殺せば武田は崩壊するかもしれないもんな。


「どいつが伊達に味方しているんだ?」

「はっ、留守、葛西、相馬、そして最上にございます」

「安東は?」

「第一軍団と南部殿を牽制する動きを取っております」

「ならば、第三軍団を押さえているのは、最上だな?」

「左様にございます」


 なるほど、俺の本陣を半包囲しつつ、第一軍団と第三軍団を押さえるか。


「殿。ここは危険にございます。ただちに海へ」


 海に向かえば、利家の第二海軍が居る。海上に出てしまえば、伊達たちは何もできなくなる。


「だが、断る!」

「「「殿!?」」」

「迎え撃つぞ!」

「「「っ!?」」」

「伊達を始めとした東北勢に負けて逃げ帰ったなど、一生の恥。この信虎に、後退はない!」


 ふーっと大きく息を吐き、気を落ち着かせる。

 俺に自殺願望はない。意地や名誉のために戦うと言っているのではなく、勝つ算段があるから戦うのだ。


「春日大隅!」

「はっ!」

「鉄砲隊で、伊達を殲滅しろ」

「承知!」

「初めての実戦が謀反人どもの殲滅だが、できるな?」

「伊達胤宗の首を、持ち帰ってみせまする」

「よく言った! 任せたぞ!」

「はっ!」


 ガチャガチャと具足の音を立てて春日大隅が陣から出て行く。

 春日大隅に預けている鉄砲隊は、今回が初めての実戦。意外と出番がなく、本人たちも不満があったようだから、丁度いい。


「信方」

「はっ」

「兵五〇〇〇を持って、葛西と相馬を蹴散らしてこい」

「はっ!」


 俺は次々に命令を発し、謀反人たちの処理を開始した。

 伊達たちの軍が突っ込んでくる前に、風間出羽守が謀反を知らせてくれたおかげで混乱は最小限に抑えられた。あとは粛々と謀反人たちを追い詰めるだけだ。

 しかし、ここで謀反か。まったく、往生際が悪い奴らだ。だいたい、謀反に加担した戦力で俺の陣に向かってきている戦力はこちらとほぼ同数。戦いは数だ。数が同等なら、兵の質と将の器で決まる。胤宗が俺と俺を支えてくれている信方たち以上の将才があれば、俺に勝てるかもしれない。

 だが、兵の質は確実に武田が上だ。質には武装も含まれ、伊達たちは鉄砲隊の恐ろしさを知らない。鉄砲隊の威力を思い知った時には遅い。この謀反は、成功しないと俺は断言する。


 しばらくすると、鉄砲の発砲音が連続して鳴り響いた。

 ほぼ同時に炸裂雷筒の爆発音も聞こえてきた。

 これまで、直営軍は戦闘らしい戦闘をしてこなかったし、第一軍団や第三軍団は炸裂雷筒は使うが、鉄砲は使わない。

 伊達軍は鉄砲の運用を初めて見るだけではなく、その身に受けて無残に命を散らすことだろう。

 この世界で初めて鉄砲が運用された戦いが、伊達戦とは思わなかった。


「頼昌。陣幕を取れ。戦が見えぬ」

「し、しかし……」

「ここに俺が居るのは、伊達たちには知れている。構わん、取れ」

「はっ」


 東北勢は騎馬隊が強力だ。だが、長篠の戦で武田勝頼が織田信長に大敗を喫したように、鉄砲による弾幕は騎馬隊の突進力を無効化できる。

 直営軍の鉄砲隊は五〇〇〇。逆に騎馬隊はほとんどいない。基本的に歩兵で編成されている。

 そして、武田の歩兵は工兵でもある。俺の陣の周囲は、簡素なものであるが空堀や馬防柵が多く設置されている。


「武田の旗を高らかと掲げよ。俺がここに居ることを、敵味方に知らしめよ」


 戦意高揚のために、武田菱がでかでかと描かれた旗を掲げる。


 轟音が間断なく鳴り響く中、俺の陣へ突っ込んでくる兵はいない。

 奇襲が失敗した時点で、謀反人たちに勝ち目はない。だが、この後の処理に時間がかかってしまう。まあ、今年はダメでも、来年で完全に東北を併呑すればいいのだが、それだけ上洛が遅くなる。

 もっとも、上洛はお上からそれなりのものを引き出すまではしないつもりだ。もちろん、それは天下の確約。

 朝廷が俺に天下を取れと言わない限り、上洛はしない。援助も最小限に抑える。


 さて、昼近くになって、伊達、留守、葛西、相馬軍に壊滅的な被害を与えて、こちらの戦いは概ね終わった。

 第三軍団と対峙していた最上は、伊達たちが壊滅したことを知って降伏したらしい。

 第一軍団を牽制していた安東は、再び檜山城に立てこもった。


 伊達胤宗の首を検める。こいつとは何度も会っているので、他の者に聞くまでもなく、本人だと判断できた。

 他に相馬盛胤、葛西重信、留守景宗などの首もある。相馬盛胤の首は炸裂雷筒に吹き飛ばされたのか、かなり損傷が酷いので本人かどう判別が難しい。


 今回の戦いで、伊達を始めとした謀反した家の主だった者が死んだ。鉄砲は矢や槍と違って致命傷になりやすい。そういうふうに改良した鉄砲を使っている。


 国元にはまだ謀反人たちの一族や家臣が残っているだろうが、だから何だというのか。

 伊達胤宗は東北最大の勢力を誇っていた。それが今回のことで、家を潰すことになる。まだ伊達家は残っているが、敵対するのであれば族滅するだけだ。降伏すれば、少なくとも女子供の命は取らない。もしかしたら、いずれは家を再興させることができるかもしれない。

 しかし、本当に伊達胤宗はバカをした。付き合わされた家臣たちも一緒に死んだ者が多い。だが、可哀想だとは思わない。奴らは滅びに向かう主君を止めなかったのだから。

 俺の下で生き残ることもできたのだ。なのに、胤宗を止めなかった。止められなかったのかもしれないが、それならそれでやり様はあった。俺に寝返ればいいのだ。それをしなかった家臣たちは胤宗と同じ穴の狢なのだ。


「中野義清は処遇が決まるまで、甘利宗信に預ける」

「はっ」


 最上は当主の義定が病床にあり、最上家庶流の中野義清が軍を指揮していた。最上義定が病気になったことがきっかけで、義清の勢力が増した。今の最上の家を牛耳っているのだ。

 たしかこいつの息子が次の最上家当主になるはずだが、今は生まれたばかりのはず。


「出羽。海野棟綱の第四軍団に、伊達、留守、相馬、葛西を攻めよと命じろ」


 国元に残った者たちが団結して、俺の後方を遮断するのは面白くない。そうならない可能性もあるが、最悪を考えて対応する。

 もっとも、補給は第二海軍が行っているため、陸上を封鎖されても補給に困ることはない。


「承知いたしました」

「次郎に伝令だ。最上の山形を押さえさせろ。武藤の残党どもも使ってやれ。最上が抵抗すれば、戦功を立てる機会になる。奴らは領地を得るために、喜んで最上を叩くだろう」


 最上は中野義清の身柄を押さえているため動かないと思うが、中野義清に反目する奴も居る。今回の謀反のことがそういった者たちの耳に入ったらどう動くか分からないため、押さえておこうと思った。


 今回、南部、大崎、戸沢は謀反に加担していない。

 だが、謀反軍に対する行動は消極的だった。

 俺の前に勢揃いした三家の当主と重臣たちを、俺は睨みつける。


「俺はお前たちに寛大であったと思うが、どうやらお前たちの受け取り方は違ったようだ」


 皆、肩を震わせる。


「何か言いたければ構わぬ、言え」


 酷く冷めた言葉。それ以上に、東北の冬の底冷えがするような俺の声。こういうシリアスなのは苦手なんだが、ここで甘い顔をしたらつけ上がる。

 誰も何も言わないので、いいわけはないようだ。


「一〇日だ。一〇日だけ待ってやる。檜山城を死に物狂いで落とせ。もし、一〇日が経過しても落とせぬ場合は、檜山城と共にお前たちも踏み潰す」


 青い顔をしているが、俺に臣従することに決めたのであれば、必死で臣従しろ。そうでなければ、俺の信頼を得ることはできないぞ。


 南部、大崎、戸沢の三家は九日で檜山城を落とした。

 昼夜を問わず攻め続けて、檜山城を落とした。味方兵の損害など気にしていられない三家の被害はかなり大きいと聞いている。

 俺が攻められている時に、日和見などしていたからこんなことになるのだ。これからは気合を入れて、武田に仕えろよ。


 南部は九戸などの当主が討ち死にしたそうだが、九戸なら逆に良かったんじゃないか?

 本家の三戸南部に従属臣従していただけで、南部の家臣ではない感じの中途半端な家が九戸南部だからな。


「九戸の当主が討ち死にしたと聞いたぞ」

「はっ、左大将様のために死ねたのですから、本望であったと思います」


 物は言いようだな。まあ、いい。


「今回の戦功に報いるため、九戸は俺の直臣に取り立てる」


 南部安信が「え?」という顔で見てきた。

 言っておくが、俺は手柄を立てた者を放置する気はない。その手柄に応じた褒美を与えるぞ。それはお前たちも同じだ。


「褒美については後日のことだが、九戸はもっと関東に近い場所に移封だ」


 その言葉を聞いた石川高信が、なるほどといった顔をした。俺の意図が分かったんなら後から兄の南部安信にしっかり説明してやれ。

 面倒な家を引き取ってやったんだ。北畠といい九戸といい俺は南部にかなり配慮したんだからな、感謝しろよ。



 臣従

 南部、大崎、戸沢、蠣崎


 直臣

 北畠、九戸


 謀反

 伊達、留守、葛西、相馬、最上


 羽州の敵対勢力

 安東


 奥州で降伏した家

 斯波、和賀、稗貫


 羽州の降伏した家

 小野寺、由利十二頭(全部ではない)


 滅んだ家

 武藤(大宝寺)、浅利


 

武田信虎を読んでくださり、ありがとうございます。

評価があると、もっとやる気が出ます。

評価の仕方は簡単です。下にある【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】するだけです。

★の数は読者さん次第。でも、いっぱいつけてくれたら嬉しいですね。


誤記は誤記報告からお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] だが断る!かっけぇっす! [一言] 一気に70話まで読ませて頂きました!続きも楽しみにしております。
[一言] まさか伊達が謀反起こすとはなぁ・・・ まぁ鉄砲の怖さを知らしめたと思えば良し?
[一言] 伊達が逝ったー! 大勢力になっても同数で戦おうとする奴は強い
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