069 東北統一
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069 東北統一
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大永五年四月一〇日。(一五二一年)
東北統一戦が開始された。
葛西、大崎、伊達、相馬の連合軍が、陸中の和賀領へ侵攻。四家の連合軍は、伊達が六〇〇〇、相馬が二五〇〇、大崎が一〇〇〇、葛西が二〇〇〇。
この連合軍に対して和賀、稗貫、斯波は足並みが揃っていない。なぜなら、斯波には南部が睨みを利かせていて、援軍を出せるような状況ではないのだ。
南部に関しては安東のこともあるので、多くを望んでいない。斯波が動けないようにしてくれればそれでいい。
ん、蠣崎? あれは、動かなくていい。動いたところで、邪魔になるだけだ。それと留守は伊達の中に含まれている。
同時に小野寺領には最上と甘利宗信の第三軍団が侵攻している。最上は四〇〇〇、第三軍団は一万五〇〇〇だ。
それから南部の他にも戸沢が安東に睨みを利かせている。南部は斯波と安東の二家に睨みを利かせるため、戦力を分散させている。そのため、どうしても戦力が不足しているので睨んでいるだけでいいと言ってある。
ただし、もし安東が動けば、この二家が連携して動くことになっている。とは言え、防衛に集中して援軍を待てと言ってあるので、そこまで難しい話ではない。
さらに、叔父縄信の第一軍団が葛西、大崎、伊達、相馬の四家連合軍の後詰として北上している。戦力は二万。
来月には俺も東北に入る予定で、その際は一万五〇〇〇と、次郎の五〇〇〇を引き連れていく予定だ。
「殿。京の都で動きがございました」
望月虎益が執務室に入って来て、そう報告した。
今の忍たちの配属は、風間出羽守の風魔が関東から東北。駿甲信越から近畿までが虎益が差配する望月と甲賀衆。中国が伊賀の藤林、四国が伊賀の千賀地、九州が百地丹波守の伊賀衆が担当してる。また、伊賀衆に関しては、百地丹波守が総代表をしている。
「どうした。将軍でも死んだか?」
なんだよ、軽い冗談だろ。そんな目で見るなよ。
「いえ、管領殿が伊勢殿を罷免いたしました」
「はあ?」
伊勢って伊勢貞忠か? 政所執事の?
「伊勢貞忠が政所執事を罷免されたと言うのか?」
「左様にございます」
武田と伊勢貞忠の繋がりは知られていないと思ったが、そうではないということか?
「将軍家と管領殿の確執に、苦言を呈したことが発端のようです」
「なるほど……高国め、癇癪を起したか」
現在、幕府が崩壊していないのは、伊勢貞忠のような縁の下の力持ちが居るからだ。高国はそれを自ら放棄した。バカだな。
「貞忠はどうしているのか?」
「屋敷に引きこもり、事の成り行きを静観しております」
「それでいい。あまり派手に反抗して高国に殺されては、せっかくの人材が無駄になる。今は大人しくしておれと伝えてくれ」
「承知いたしました」
高国のバカのことは今は放置でいい。
「殿」
次は真田頼昌から報告があるようだ。
「大坂御坊の織田大和守のことですが」
そう言えば、織田大和守のこともあったな。今は津田判官と名乗っていたはずだ。
「実如殿は病に伏せっているとのことで、蓮淳殿から正式に織田大和守は居ないと返事がありました」
「随分と時間がかかったものよ」
「申しわけございません」
「頼昌を責めているのではない。返事をするまでに、時間がかかった本願寺の内情を考えていたのだ」
「と、申しますと?」
本願寺実如が病気なのは、本当の可能性がある。六〇を過ぎているはずだから、体調を崩していてもおかしくはない。
問題は蓮淳が実権を握っているのかということだ。蓮淳というのは、長島の願証寺を建てた僧の名で、実如の弟である。こいつが長島に願証寺を建てなければ、織田大和守が知多に一向宗を引き入れて、知多の惨劇を起こすことはなかっただろう。
俺から見たらA級戦犯である蓮淳が実権を持っていたら、一向宗との融和はない。あいつだって、俺をA級戦犯だと思っているだろうから。
つまり、徹底的に潰し合う未来しかないということだ。
「まずは、本願寺が織田大和守の引き渡しを拒否したと、朝廷や周辺国に噂として流しておけ」
近畿は虎益の管轄だから、虎益が頷いた。
「知多の惨状を、武田が忘れることはない。いいな」
全員が頭を下げる。
「次は根来寺の件の報告にございます」
教来石信保が口を開く。根来寺は信保の担当だ。
「根来寺は僧兵を当家に委ねると申しました」
「ほう、予想外だったな。本願寺同様、断ってくると思っていたが、どう説得した」
信保は口端をニヤリと上げた。自慢したいのか? したいんだな。していいぞ。
「長島での一向宗の惨劇を聞かせただけにございます。あとは、多少銭も使いましたが、僧兵と海上戦力については、全て当家に委ねることを約しました」
「うむ、銭で片がつくのであれば、それでいい。無駄に命を散らすことは、少ないに越したことはないのだからな。よくやった」
「ありがたき、お言葉。そこで、津田算長が控えておりますれば、お言葉をいただければ幸いにございます」
津田と言うと、津田監物の父か何かか? 津田監物というのは、種子島でポルトガル伝来の銃を譲り受けて砲術とその製造法を学んだ人物で、津田流砲術の祖と言われている。これは史実の話で、一五四三年以降の話だな。
鉄砲伝来までまだ二〇年以上あるため、本人ではないと思うが……?
執務室に入ってくることを許すと、津田算長が入ってきた。若い。二〇前後で俺と大して変わらぬ若さだ。頭はツルツルである。僧兵だったので、剃髪していたのだろう。
こいつ、津田監物その人なのか?
「それがし、津田算長と申します。左大将様にお目通り叶い、望外の喜びにございます」
「その方が根来寺の武装勢力を率いているということでいいのだな?」
「左様にございます」
「若いのに僧兵たちを纏めるとは、かなり優秀のようだな」
「ありがたきお言葉にございます」
「苦渋の決断であったろうが、よく決断してくれた。感謝する」
苦渋の決断だったのは、俺が言うまでもないだろう。その決断をしたのだから、それに報いるのが俺の役目というものだ。
「今後は武田家の御為、誠心誠意相勤めまする」
眼光が鋭い。若いがそれなりの修羅場を掻い潜ってきた者の目だ。
「その方も知っていると思うが、当家は本願寺と何かと問題を抱えている。本願寺と事を構えることになった場合、どうする?」
俺の質問が意外だったのか、津田算長は眉をピクリと動かした。
ここでどのような算盤を弾くかによって、津田算長の使い道が変わる。
「是非もありませぬ。左大将様が命じるのであれば、我らは大坂御坊へ攻め入りましょう」
「よく言った。だが、戦いたくなければ、正直に言えばいい。武田は戦力に困っておらぬからな」
「はっ、お心遣いに感謝いたしまする」
平伏した津田算長を見下ろし、話を切り替える。
「さて、安芸武田への援助を強化する。津田算長、お前の初仕事は、安芸武田への物資の輸送だ」
「はっ」
安芸武田への援助は続けている。俺が天下に号令する時に、中国に俺の勢力があるのとないのとでは、対応のしやすさが違ってくる。
安芸武田に求めることは、安芸で勢力を保ってくれということだけ。そのために、根来寺の海賊は使える。それに、堺へ睨みを利かせるのにも使えるし、淡路や四国の細川にも睨みを利かせられる。
根来寺を押さえたのは大きいということ。
「根来寺は武田の方針に従い、戦力を分離させた。根来寺を末永く保護することを約束しよう。もちろん、分離した戦力については、働きに応じた報酬・褒美を与えることを約束する」
「はっ、ありがとう存じまする」
「それと、分離させた戦力を根来衆と言うのもあれだ。今後は紀伊水軍と呼称することにする。紀伊水軍奉行は算長に任せる。志摩の九鬼と連携し、安芸武田への物資運搬を行うように」
「はっ」
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