067 東北統一
■■■■■■■■■■
067 東北統一
■■■■■■■■■■
大永四年一〇月一日。(一五二〇年)
「ほう、高国が負けたか」
若狭武田と北畠の援護を受けたのに、かなり手酷く負けたらしい。まったくどうしようもないクズだな。
「はっ。三好勢にも多くの被害が出ておりますが、管領殿は朝倉殿の越前に逃げましてございます」
史実とは違った歴史が紡がれている。朝倉も厄介者がやってきたと、困っているんだろうな。その証拠に、越中武田を通じて、俺のところにやんわりとどうしたものかと確認があった。
「朝倉殿には、銭は出しても兵は出すなと言ってやれ。必要であれば、銭は武田が出すともな」
「よろしいのですか?」
使者としてやってきたのは、武田信連。越中武田家当主信守の弟だ。
「構わん。とりあえず五〇〇〇貫を越中に送る。どれだけの銭を渡すかは、信守の判断にまかせる。ただし、朝倉の兵は出させるなよ。兵を出して京を焼いたとなったら、朝倉を討たねばならなくなるからな」
「承知しましてございます」
次郎が朝倉の姫を娶っていることから、朝倉は凖一門衆として扱っている。
その朝倉が京の都を焼いてしまっては、シャレにならない。そうなったら、次郎の妻の実家であろうと、それなりの処分をしなければならなくなる。それは避けたい。
だから、銭を与えて細川高国を追い出してくれるのが、一番だ。高国が銭を使って兵を雇い、六角と共に三好と戦う。共倒れになってくれると、面白いんだけどな。
「ところで、管領殿に銭を与えれば、将軍家がうるさいと思いますが……」
「将軍家が兵馬を養い、この戦乱を収められないのだから、管領に頑張ってもらっている。それが武田の主張だ。なにせ、高国はまだ管領なんだからな」
クククッと笑い、信連に引かれる。
言いわけはなんとでも立つ。高国が管領である以上、細川澄元は幕府に逆らう逆徒でしかないのだ。
澄元を管領にすれば高国を追い込めるというのに、足利義稙はそこのとこがまったく分かっていない。決断力のないクズだな。
まあ、俺の場合は管領家だろうが将軍家だろうが、関係ない。俺が望む天下に無用な奴らだ。だが、管領家と将軍家の間抜けさが際立ち、武田を望む声が大きくなることはいい。フフフ。
さて、ここで近畿の勢力を纏めてみようか。
高国の勢力
高国(讃岐、丹波)、六角(近江南部)、北畠(伊勢中南部)、武田(若狭)。
興福寺と畠山が澄元についたため、高国は負けてしまった。
ちなみに、朝倉は中立なので、高国が逃げてきたのを迷惑に思っていることだろう。
澄元の勢力
澄元(摂津)、三好(淡路、阿波)、赤松(播磨)、興福寺(大和)、畠山(和泉、河内、紀伊)。
この他に堺の商人たちが澄元を援助している。堺の商人は、澄元というよりは、三好を援助しているんだがな。
それと、興福寺と畠山は状況を見て旗色を変えるので、信用できない。
この騒動は、大掛かりな管領家の内輪揉め。両細川の乱と呼ばれるものだ。
巻き込まれた奴らはいい迷惑だろうが、好きでやっている奴も居るので質が悪い。
六角は落ちぶれた家を再び隆盛に持っていこうとしている。そのため、高国とは切っても切れない間になってしまった。
その原因は俺にあるので、すまないと思って……るわけがない。高国などさっさと放逐して、俺に臣従すればいいのだ。
まあ、史実では高国を擁して三好と戦い、両細川の乱を終結させた六角定頼なので、簡単に高国を切るという判断はできないのかもしれないな。
とりあえず、間接的に銭を送るから、がんばって混乱させてくれ。
史実では澄元と高国が激しく争い、澄元が将軍義稙を押さえている時期。この世界でも同じように今は澄元が将軍を押さえている。
この後、史実では高国側の勝利で、両細川の乱は終焉を迎える。それによって再び高国が将軍を押さえるのだが、その義稙は高国に追放されてしまう。
この追放劇は、義稙が自ら出奔したという説と、高国が追放したという説があるが、どっちでも構わん。
この追放劇で義稙は後柏原天皇の即位式に出ることができず、足利義澄(一一代)の子である足利義晴が一二代将軍になる道筋が作られた。
ただし、この世界ではすでに後柏原天皇の即位式は済んでいる。さて、どうなることか。
▽▽▽
大永四年一二月一三日。(一五二〇年)
空を見上げると、うす暗い灰色。
風が吹くと、首元が寒い。
もうすぐ雪が降るだろう。今年の雪は多いかな?
ドスドスと床を踏む音が聞こえた。
真田頼昌が俺の横で正座して頭を下げる。
公家はドスドス歩かないのに、武士というのはどうして床をドスドス歩くのか? 皆、同じように歩くんだよ。
「殿。武藤が内部分裂しました」
「そうか。で、どうなった?」
「当主武藤澄氏殿を始め、武藤の直系は皆殺害されましてございます」
「今は誰が統治しているのだ?」
「安保と来次などの国人にございます」
元々大宝寺を名乗っていた武藤は、少し前に勢力を広めていた。しかし、その後に国人たちの反抗が激化していたので、俺がちょっと国人たちに手紙を書いただけで、武藤は滅んだ。
羽州ではすでに雪が降っているだろう。この時期に軍は動かせないが、こういったやり方もある。俺は国人たちに、武藤と共に滅ぶか選べと書いて送っただけ。
「国人たちの領地は安堵。武藤の直轄だった土地は武田が治める。そうだな、正利に差配させろ」
「承知いたしました」
西村正利に武藤の後始末をさせることにした。
西村正利の能力は疑う余地はない。任せておけば、俺の思惑通りの働きをしてくれるだろう。あまり力を持たせると俺に剣を向けそうだが、史実では土岐がクソだったこともあり、野心を抑えきれなかったのだろう。
西村正利の能力を正しく評価し、そして適材適所で使ってやれば、あいつだって俺に反旗を翻そうとは思わないだろう。
「雪が溶けるまでに、どれだけの敵対勢力が残っていると考えるか?」
「由利十二頭の半分はこちらに靡きましょう。蠣崎も靡くことでしょう。あとは、浅利は武藤と同じ末路を辿るかと」
妥当な線だ。家柄だけの斯波と、まだ野心を捨てきれない安東は絶対に靡かないだろう。
城を大軍で包囲された後に降伏したところで、家を潰すだけだというのにな。
雪解けまでにどんな勢力図になっていることか。
武田信虎を読んでくださり、ありがとうございます。
評価があると、もっとやる気が出ます。
評価の仕方は簡単です。下にある【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】するだけです。
★の数は読者さん次第。でも、いっぱいつけてくれたら嬉しいですね。
誤記は誤記報告からお願いします。
次回は10/16に更新します。




