066 東北統一
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066 東北統一
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大永四年七月一日。(一五二〇年)
呆気なく終わった上総征伐。これで関東は佐竹以外全て武田の勢力下。佐竹も同盟国なので敵対勢力はない。
さて、東北のことだが、磐城と岩代は手に入った。陸前も伊達、大崎、留守が臣従している。
陸中では和賀と稗貫、陸奥では北畠、羽前では武藤(大宝寺)、羽後では小野寺、由利十二頭、安東、浅利、そして蝦夷では蠣崎が敵対勢力になる。
こうして見ると、敵対勢力はまだまだ多い。だが、武田に対抗できるだけの勢力はない。しかも、武田に敵対する勢力同士で敵対しているところもある。これでは時間はかかるかもしれないが、武田が東北を統一するのは既定路線だ。
もっとも、東北統一に時間をかけるつもりはないけどな。
ちなみに、羽後の浅利は武田から分かれた家になる。南部と同じだが、今では南部と浅利は争う仲だ。まあ、同族だからと言って、争わないという法はないのだが。
さて、佐竹義篤が小田原城にやって来た。まだ一四歳の若者だが、三年前に佐竹の家督を継いでいる。
その佐竹義篤を補佐するのが、佐竹北家の北義信(佐竹義信から家名を改めている)だ。北義信は佐竹義篤の叔父になり、現時点で佐竹を纏めている人物。
「左大将様におかれましては、ご機嫌麗しく。お慶び申しあげます」
「義篤殿、よく来てくれた。嬉しく思う」
「はっ、ありがたきお言葉」
この佐竹義篤の孫の義重が、鬼佐竹とか坂東太郎などという渾名がつけられる猛者なんだが、目の前の少年に鬼という表現は合わない。
なんと言うか、おっとりとした感じで、どちらかと言うと公家のような下膨れの顔立ちをしている。まだ戦の怖さというものを経験していないんだろう。
翻って北義信は良い顔立ちをしている。眼光鋭くその胆力が伺い知れる顔立ちだ。
佐竹を束ねている者がどちらかは、言うまでもないな。
「義信殿もよく来てくれた」
「お言葉、ありがたく」
北義信は俺の言葉を受けて頭を下げる。
今回、この二人が小田原城へやって来た理由は、関東を統一した武田に祝いの品を持ってきた。それが表向きの理由。
では、本当の理由はと言うと、武田との同盟をさらに強固にするためだ。佐竹の領地の周囲は全て武田の勢力。それを考えれば、同盟強化は当然の考えなのかもしれない。
そこで佐竹義篤は当家に従属すると、言ってきた。もちろん、これは本心ではない。
一応、俺は信義を重んじる。約束は守るし、同盟相手を不意打ちするようなことはない。それを分かっていての、申し入れだ。
「ふむ、義篤殿の話は分かった。だが、我が家に従属せずとも同盟を強化すればよいと思うが、どうかな?」
もっともそれは強化という半従属同盟というのが正しい。その方が、佐竹としても安心するだろう。
そこで俺は提案した。越中武田家に一二歳の娘がいる。その娘を娶らないかと。
「越中の武田信守の妹で小夜と言う。俺にとっては従妹にあたる娘だ。気立ては良いぞ」
ここ数年は会ったことないが、信守は気立ての良い妹だと言っていた。それに、嫁ぎ先のことで相談を受けていたので、丁度良いと言ってはあれだが、タイミングが良かった。
「もっとも、まだ一二の娘ゆえ、実際に嫁ぐのは数年先になると思う。義篤殿とはそれほど年齢も離れていないことだし、どうであろうか?」
俺だって婚姻外交くらいするからな。なんでも滅ぼしてばかりいたら、武田の世になっても人が居なくなってしまう。
たとえ真里谷と手紙のやり取りをしていても、こちらに何かをしてきたわけではない。それについては、聞かなかったことにしてやろう。
それに、佐竹とは早くから友誼を結んでいた。できればこのまま良い関係を続けたいのだ。
「殿。願ってもない良縁。お受けなさりませ」
「そうだな」
いきなり結婚の話になったことで、やや呆けていた義篤。北義信に促され、俺に頭を下げて受け入れた。
▽▽▽
大永四年八月一〇日。(一五二〇年)
南部が津軽の北畠を降伏させた。
北畠はそのまま南部の配下になることになったが、領地は津軽から移された。
当主南部安信は弟の高信を津軽に入れて、石川姓を名乗らせた。
その安信が小田原城にやって来て俺に挨拶した。
「お初にお目にかかります。某、南部右馬允安信と申します」
体はそれほど大きくない。さらに、まだ三〇にもなっていないのに、歴戦の猛者の雰囲気を纏っている。
「よく来たな。これからも忠勤に励めよ」
「はっ。精進いたします」
「で、その後ろに居るのが、北畠、いや浪岡具永だったか?」
南部に降伏した北畠は浪岡城を拠点にしていたことから、浪岡姓を名乗っている。また、鎮守大将軍北畠顕家の末裔のため、浪岡御所と言われていたそうだ。
御所というのは、武家では将軍が使う称号。つまり、浪岡は今でも鎮守大将軍だと言っている家だった。それも過去形だが。
「浪岡具永と申します。左大将様のご尊顔を拝し奉り、望外の慶びにございます」
「御所と言われていたんだろ? そこまで遜る必要はないぞ」
「い、いえ。これはけじめにございますれば」
「ははは。そうか、けじめか」
浪岡具永は武士というよりは、公家のような雰囲気を纏っている。
まあ、北畠と言えば元々公家だからな。
さて、浪岡具永は内政手腕に優れているらしく、田舎の浪岡がかなり栄えていると聞いている。
「はっ……」
「よし、決めた。具永よ、お前は俺の直臣にする」
「「は?」」
二人が呆ける。
まあ、俺も今決めたので、自分でも驚いている。
「浪岡の石高はどのくらいだ? 五万石か? 一〇万はないだろ?」
「は、はあ……あの」
「いやいい。具永は一万石の領地と玄米で二万石を与える。それでいいな」
「あ、その……」
二人は困った顔をしている。
「具永。お前は一族を引き連れて、この小田原に詰めよ。今から帰って一族を引き連れてくれば、雪が降る前に移住できるだろう。船は俺が用意するから安心しろ」
津軽平野なら開発すれば数十万石になるだろうが、現在ならいいところ五万石だろう。
その石高全てが領主に入るわけではないので、俺が提示した条件であれば、実質の実入りが減ることはない。
もっとも、南部に降伏したため、領地はかなり狭くなっているはずだ。だから必ずプラスになるはず。
「殿。浪岡殿のどこが気に入ったのでございますか?」
「ん? さぁ?」
「さぁって、気に入ったから直臣にしたのではないですか?」
長尾景長が呆れ顔で見てくるが、そこまで気に入ったわけではない。
「いや、南部も浪岡が家臣ではやりづらいだろうから、引き取ってやっただけだ」
南部の本家は三戸南部。しかし、他に一戸、四戸、七戸、八戸、九戸、北、南などの南部の支流がある。
その多くは一応、三戸南部に従っている。だが、各家は独立した勢力と言っても過言ではない。だから、浪岡のような異分子を入れたくないだろう。
逆に俺は人が足りずに困っている。とりあえず、公家の所作にも精通しているようなので、叔父の松尾信賢の下につけていいかもと思っている。
そう言えば、そろそろ信賢叔父上にも領地を与えないとな。あと、次郎にもどこか領地を与えてやらないといけないな。どこがいいかな……。
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