プロローグ
どこかそう遠くもない時代、アメリカの一角は犯罪都市と化していた。マフィアたちが台頭し、武力と薬で経済から果ては企業、政治にまで潜伏し、
その下にはギャング共が溢れ、暴力が支配する狂気の街と成り果てていた。この状況に見かねた国家は軍と警察を投入し、これらの対応に乗り出したが、
その努力も虚しく、企業とともに軍、警察でさえもマフィアの忠実な犬として吸収され、支配下に置かれる結果となった。
遂にすがる藁さえも無くなった国家は、当地区を放棄し、実質的に無政府地帯となるのであった。
しかし当地区に暮らす人々にとっては治めるものが国から暴力組織に代替されただけであり、特に不自由を感じることなく今までどおりの
生活を続けてきた。
はじめは世間一般とは無縁であったマフィアであったが、次第にその頭角を現し、人々を抑圧し始めた。それに伴いギャングも便乗し、食う者、食われる者
の立場がはっきりし始めた。これに抗おうとする者も極少数現れたが、出る杭は打たれ、恐れた人々は見て見ぬふりをして、耐えて、耐え凌いで、明日を食い繋いで
いた。はっきりとしたヒエラルキーが、食物連鎖の関係が、そこには確かに存在していた。
真夜中の路地裏、静まり返る夜。虫の音は五月蝿く、野犬の遠吠えが鳴り響く。そこにギャング共の輪が一つ。大量の物資を囲んで狂喜していた。
「ひひひ、これだけありゃ、ボロ勝ちボロ儲けだな」
物資の中身は大量の銃器とその弾薬。今からどこかの派閥と抗争でも始めるのだろうかというほどの物量だ。どこでこれほどの物を集めたのかは定かではない。
まるで地面に落ちた飴に寄って集る蟻のようであるとも言える。それ程に、この場所だけが喧騒としていた。
柄の悪い男たちが群がる中、向こうからこれまた同じく柄の悪そうな少女たちが三人。そのうちの一人、エリザベータが口を開く。
「ほぅ……面白そうなことしてんなぁ?俺たちも混ぜてくれよ」
ギャングの一人が逆上。何かを抜き出し、少女たちに接近する。恐らく刃物か、凶器の類であろう。
「ああ!?何だてめえら!?」
男の叫びも束の間、それを掻き消すように銃声が轟く。M500の爆炎によって男の頭部が良く熟れたトマトの様に弾け飛び、勢いよく大の字で後ろに倒れ込んだ。
予想外の状況が飲み込めず、後ずさるギャングたち。それに対しエリザベータが答える。その声は落ち着いたような、どこかこの状況を楽しんでいるようにも感じられた。
「ただ、弱い者いじめが趣味のクソガキ共だ」
完全に頭に血が登り、暴力に訴えかけるギャングたち。頭と思しき男が怒号を飛ばす。
「お前ら!やっちまえ!」
ギャングたちが一斉に銃を構え始める。一見すると多勢に無勢。少女達が圧倒的に不利と思われる状況であったが、物事に例外はつきものである。
アンナも同様に銃を発砲。片手には軽機関銃。もう片方には短銃身の小銃。その多銃奏は留まることを知らず、チンピラ共を次から次へとなぎ倒していく。その様は無邪気な子供に踏み潰される蟻のようである。
運良く、この状況では運悪くと言ったほうが良いのか。最後に取り残された頭は武器を投げ捨て、無様にも逃走。
「まずい、俺だけでも逃げないと……」
逃げ出す鼠の大腿部を、どこからか打ち出された弾丸が貫く。鼠は被弾部を押さえ転倒、その激痛に悶絶。
「ナイスショットだ。エレン」
苦しみながらもそれを食いしばり、最後の抵抗を見せんと短機関銃を構える鼠。
「クソ!クソ!クソ!」
なぜ自分がこんな目に合わなければならないのだとでも言いたげな表情。腕は震え、照準も覚束ない。
刹那。銃を構えた腕が宙を舞う。鮮血が路地裏を彩る。鋭い刃物で切断されたようだ。
「どこを見ているの?わたしはこっちよ」
いつの間にか回り込んでいた。狐面の少女。
「こんな……ガキ共に――」
全身の力が抜け、その場に絶命する最後のギャング。死体の頭を踏みつけながらエリザベータがあたりを見回す。
「よし、もうカス共はいねえみてえだな」
蟻達が群がっていた物資に近寄る三人の少女。ケースに詰められた大量の銃、弾薬。エリザベータがその一つを手に取り、呟く。
「ああ、中々良いモンだ。こいつをアビーに捌いてもらえば、良い金になるだろうぜ。おまえら、こいつを頂いて帰るぞ。そんでもってバーガー屋に寄ってくからな。コーラは、Lサイズだ」
場所が場所であれば美しく輝いたであろう満月を背に、どこかへ帰っていく少女たち。
『これは、複雑に絡み合った狭い篭の中で必死に藻掻く者達の叛逆の著述である』
改めまして、よろしくおねがいします。