幻想魔詩
1
闇の王は恐れていた 人の生命を奪うことに
かつて愛した者との約束が 闇の王を恐れさせていた
闇の王への復讐のために
人間たちは徒党を組み大軍となった
闇の王が守り住まう地に 大破壊をもたらすために
それは未来において
闇の王という脅威を人々から除き去るため
傲慢なる正義に突き動かされて
大軍となった人間は 闇の王へと歩みゆく
闇の王の心情を知らずに
2
闇の王が守る地には か弱き民たちがいた
人々に虐げられた民たちは 闇の王によって守られていた
緑葉の木々が満ち 神聖なる大樹がある森林
穏やかなる風が吹く 花々が咲き乱れる草原
人身未踏を成し続ける 荒美なる山々
それらから成る一つの楽園
人間という大軍は その楽園を破壊しようとしているのだ
ゆえに、楽園に住まうか弱き民たちは
己たちの住むべき場所の喪失を恐れた
仲間の生命が奪われるのを 見たくなかったのだから
3
闇の王は意を決した
己が守護地に迫る
人間の大軍という火の粉を払い返すことを
その意に従するように 荒美なる山々に住まう竜たちは
闇の王の言葉に従い 守護地の前線へと防壁を成した
すべてはか弱き民たちを守るために
4
闇の王の守護地へと
人間たちは己が得物を 掲げながら攻め立てる
闇の王と竜たちは守護地の前線にて
破壊のために進軍する
人間の大軍を退けるために その歩みを阻むために
己たちの威を持って 踏破されざる絶対の防壁と化した
5
人間たちのなかで 英雄と称されし者らが
闇の王の守護地に現れた
彼らの目的はただ一つ
己が内に秘めし 正義感に突き動かされるままに
闇の王を討つことだ
闇の王を望みを先入観にて誤り解する
人々の称した英雄たち
それは愚かしき暴威と称するにたるもの
ゆえに闇の王は
剣を持って英雄たちの暴威を
完膚無きまでに打ち砕く
嗚呼、人々が英雄たちに託した
愚かしき望みは ここに潰えた――
6
竜たちの威によって 歩みを阻まれている
人間の大軍に途方なき絶望が臨む
望みを託した英雄たちが
皆、闇の王によって敗北を喫したのだから
英雄たちによって高められていた士気は
英雄たちの敗北により地に墜落する鳥のように
墜ちていった
そして、今まで彼らが戦っていた竜たちが
英雄たちの喪失により
途方もなく強大で勝利しえない存在へと
内に膨れ上がった恐怖にて 大軍を為す人間たちの瞳に写った
ゆえに彼らは
闇の王の守護地という戦場から撤退という逃亡を余儀なくされた
そして彼らは語り継ぐ
闇の王と竜たちの恐怖を 次代を為す子らに
7
撤退する人間の大軍を竜たちは眺めていた
これ以上、彼らが
楽園へと攻め立てることがないと理解したから
これ以上の追撃は
闇の王が望まないと知っていたから
そして、愚かしき暴威に 立ち向かい、打ち砕いた
闇の王は安堵した
人間たちの生命を これ以上、奪わなくてすむことを
愛した者との約束を 綻びつつも守れたことを
8
こうして、現在と未来 双方の脅威を巡る
一つの戦争は終焉を迎えた
そして、闇の王の願いは悠久の年月の果てに
楽園に住まう民たちからの祝福とともに
叶えられたのだ――
<終>