愛する人を見つけた
I found a loved one
I can't keep my usual look
That is the beginning of the collapse and the beginning of the regeneration.
愛する人を見つけた
俺はいつもの表情を保てなくなる
それが崩壊のはじまりで再生の始まりだ。
昔の事を思い出す名前、それが『しおり』だ。俺はその名前を聞いた瞬間に自分の実験が上手く行った事を知る。彼女が生前の時の行動、考え方、そして人間性をイシスに組み込んだのだ。彼女の複製を作る為にイシスと言う存在を利用したに過ぎない。
副社長……いや、蒼生と呼べばいいだろう。もう彼女は俺の上司の立場ではないのだから。イシスの器として落ちた彼女はもう人間と呼べない物体なのだ。それでもそこにしおりは生きている。元の体の持ち主の意思を押さえつけて君臨しているのだ。
「……君に会いたかった」
ふと零れたのは本当の心。自分の中で消化していたつもりだったが、やはりこうもしおりに生き写しになり、自分の名前をそう呼ぶ声も、俺が唯一愛した彼女と同じなのだから、感情も揺さぶられてしまうだろう。
「私は貴方を見ているとイライラするわ、何故かしら?」
「ははっ。再会したのに、冷たいな」
「貴方に会った事ないはずなのに……」
「ふふっ。何も混乱する事なんてないんだよ、しおり」
俺がしている事は残酷な事なのかもしれない。死した者の細胞さえもイシスに取り込んでしまったのだから、完全な偽物ではないんだ。一部でも彼女の鼓動がある、そう考えれば満足に近いものを得られた。
「どうして私を呼び覚ましたの?」
「君が必要だからだよ」
先ほどまでイシスとしての口調が強かったのに、だいぶ馴染んできたのだろう。少し時間が経てば、しおりそのものの話し方になってきている。
それが嬉しくて、興奮して、今なら命を投げ出してもいいと思えるくらいに……
「私が必要? どうし……て」
急に頭を押さえたしおりは脂汗を垂らしながらカタカタと震えている。俺は副作用が来たのかと予測し、彼女の元へと用意した錠剤をしゃがみこんで彼女の口元に放り込んだ。自分で飲む事が難しいかもしれないから、自分の唇で塞ぎ、きちんと飲み込んだのを確認すると、唇を離した。
「っつ……ゲホッケホッ」
「しおり大丈夫? 手荒らな真似してごめんね。でもこうしないと苦しいだろう?」
「何を飲ませたの?」
「苦しみを取る為の薬さ。慣れるまでは副作用が出る可能性があるから、君の傍に俺がいる」
二人の会話は初対面同志の会話かもしれない。でもそこには確実に過去のしおりの姿があって、生きている。
──ただそれだけでよかった。