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おかえり


 「何かしら?」


 私は彼の瞳を覗き込むと深い闇に吸い込まれていくような感覚を覚えて身震いをした。奥底で何を考えているのか、見ているのか分からない男。いつもとは違う雰囲気の岬を探るように言葉を選ぶ。そんな私に気付いたのか「クスリ」と小さな笑みを漏らした岬は、黒い眼差しで今度は見つめ返してきた。


 「貴女の本当(・・)の目的は何ですか?」

 「……急に何を」

 「俺が何も気づいていないとでも?」


 余裕のある笑みに変化していく。この男はどれだけの仮面を持っているのだろうか。全ては統一されているように見えるのに、別角度から見ると別人のようにしか見えてこない。「これは何かの錯覚かしら?」と考えてしまう自分が、まるで彼の手のひらで転がされているみたい。


 私は押しつぶされそうな闇から逃げる為に御託(ごたく)を並べていく。一つ一つの言葉がバラバラで私の言葉らしくない。岬に誘導されているようで、初めて恐怖を感じた。私が思っている以上に危ない人間かもしれないと思いながら、無意識に後ずさりをしてしまった。


 「……どうしたんですか? 副社長。顔色が真っ青ですよ?」

 「……なっ」


 続きの言葉が出てこない。何か言わなくちゃ自分と彼との立ち位置が変わってしまいそうなのに、喉に詰まって出てこない。そんな私に近づけば近づく程、私は防衛本能で離れようとする。まるで獲物と駆られるもののようだ。


 その瞬間「ガシッ」と私の腕を引き寄せ、耳元に唇を寄せてくる。


 「岬っ?」

 「……貴方は自分が思っている以上に「侵食」されていますよ」


 そう呟く岬。


 「訳が分からない」


 率直な意見を言うと不気味な嗤いで「ククッ」と低音に包まれた音が私の脳内を駆け巡る。脳内の中で赤いランプが点滅する。これは「警報」だ。自分の中にいるもう一人の自分……「イシス」を体内で飼っている(・・・・・)状態から私が「イシス」の立場に落とされていく。警報音に答えるように痙攣が始まる。


 「……くっ」

 

 頭が痛い、喉が渇く。まるでここは灼熱地獄(・・・・)。感じた事のない痛みと流れ出る汗が叫び声と共に飛び散っていく。


 「あああああああああああああ」

 

 そんな私を見ている岬は「人間」をみるような目から「化け物」を見ているように下劣な嗤いを発する。何、笑ってんのよ、とか言いたいのだが、口を動かそうとしても動かない。「イシス」を取り込んで馴染んでいたから安心したのに、岬の言葉に反応をしたかのように「生まれてくる」


 ──私じゃない「イシス()」かが……


 「おかえり「イシス」」

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