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一枚の写真


 こんな形でキスをするなんて想像もしなかった。私はふう、と深呼吸をしながら目を瞑る。手にはほんのりと温もりが流れてくる。蒼生が安定するまで握ってくれている。人の温もりにここまで、安心するのかとぼんやり考えながら、眠りについた。


 私は意識を手放し、自分の世界……夢の中へと堕ちていった。



 蒼生はそんな私を見つめながらも、ため息を吐く。彼女が何故そんな顔(・・・・)をしているのかは、本人にしか理解出来ないだろう。私が眠りについたのを確認すると、ソッと握られていた手を離した。


 「岬……か」


 蒼生は、そう呟くとまた表情を変えた。まるで百面相のようだ。無表情を務めようとしていても、怒りの感情が表に出ている事は否定出来ない。




 The light disappears from the eyes

 Darkness is born


 瞳からは光が消え

 暗黒が産まれる



 

 ──ピロン


 スマホの通知が鳴る。蒼生は音を切り忘れていた事を思い出し、急いで消音に設定した。チラリと眠っている私を確認し、気づかれていない事に安心しながら、タップした。


 黒いアイコンのアカウントからはログアウトしていたようだ。彼女の本来のアカウントに何かメッセージが来ている。アイコンを見ると、岬の姿がある。蒼生は眉を顰めながら、メッセージを読んでいく。


 <血を手に入れました。これで次の実験が出来そうです。副社長にお伝えしたくてメッセージしました。夜分遅くに申し訳ありません>


 申し訳ないと思うのなら、このタイミングで連絡してくるな、と思いながらも、きちんと返信をする。イシスを作る為には血液と細胞が必要不可欠だ。私はイシスの存在を知らずに眠り続けている。その横で何事もなかったかのように、口元をにんまりとさせる蒼生がいた。


 <申し訳ないと思うのなら、次から気をつけてほしいものね。その血は何処から手に入れたの?>


 いつもの蒼生なら単刀直入に聞いたりはしないだろう。知らないふりをするか、同調するかの二択だ。しかし、私の状態を見て、何らかの感情を抱いていたのかもしれない。


 スマホを見つめていても仕方ないと思い、閉じようとした時だった。光の点滅が瞳に反射し、引き寄せられるかのように画面を再確認する。


 すると、そこには一枚の写真が添付されている。蒼生は岬が接種した私の血の効果を一枚の記録として見せつけたのだった。


 それを見た蒼生は、私が傍で眠っているのも忘れて、高らかに笑い声をあげた。


 「うふふふふふふ。素敵」



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