黒いアイコンのアカウント
──ピロン
スマホに一つの通知が来ている。蒼生は誰もいなくなった部屋の中でタバコを吸っていた。険しい表情で考え事をしているようだ。灰は徐々に光を失い、灰へと変化していく中で、咥えていたタバコを灰皿へと持っていく。
同時に口から煙を出した。頭に少しの痺れを感じながらも、ニコチン接種のおかげでイラついていた感情も少し冷静さを取り戻したようだ。
誰もいないからと言って、自分の本心を口にする事がない彼女は最後に一吸いし、火を消した。
先ほどからスマホの通知が煩い。何事かと思いながらスマホを確認すると、身の覚えのない「アイコン」からメッセージが来ている。いつもの蒼生なら放置するのだが、その時の彼女は違った。暗証番号を打ち、画面を開いていく。そして通知の欄に表示をタップした。
開くと、裏アカウントらしいものへと続いていた。彼女の表情はまだ険しいままだ。一つため息を吐く。アカウントのホームを確認しても、何の情報を落ちていない。知り合いのアカウントだろうと思いながらも、どんなメッセージが来ているか一応確認をする。
見るとURLが表示されている。スパムだろうか。時々こういうメッセージが来る事があるのだが、URLの一部分に「Goddess」と表示されている。ピンと来た彼女は何の躊躇いもせず、リンクを開いていく。
するとある「サイト」へと辿り着く。背景は真っ黒だ。そのまま見ると何の情報をないようなサイトに見える。しかし彼女は指で長押し、指をスライドさせていく。すると背景と同色で書かれた文字が浮き彫りになる。
「ふうん。接触したのね……成程」
呟く事のなかった彼女の第一声だった。その顔は歪んだ笑いに満ちていて、彼女の表の顔しか知らない人間からしたら、不気味だろう。
自分のすべき事を理解した彼女はその文字の通りに動く事を決めた。自分で動かなくても、誰かがする可能性があるが、私に一番身近なのは蒼生、彼女本人。
この環境を利用しない手はないと思いながら、彼女はまたメッセージ欄へと移行した。黒アイコンから来ているメッセージに「Demon」と打ち込む。するとすぐ返事が届いた。
「ふふっ」
蒼生は送られてきた暗証番号とパスワードを見つめながらスクショした。そして自分のアカウントからログアウトすると、来ていた通りに打ち込んでいく。すると、メッセージが来ていた先ほどの黒アイコンのアカウントにログインする事が出来た。
「あんたが自分ですればいいのにね……まぁ、いいわ」
毒を吐く割には楽しそうに微笑んでいる彼女は作業をし始めた。