初対面じゃないよ、俺は君の事をよく知ってる
血を欲っする私は獣になりたい
指を食べたい私は凶器になる
手を切り落とす私は悦楽を知る
全て狂えばいい、私の中の狼がそう告げた。軋みは始まりを告げたのかもしれない。レイカと出会ってから、巻き込まれている気がする。ヒスは急に飛び出し、私は変なものを見せつけられ、そして口の自由を奪われた事を日常として生きている女と出会う。挙句の果てには会いたくもなかった蒼生との再会。
(何が起ころうとしているんだ?)
私は父の呪縛から自由になりたかった、だから新しい居場所を得た……はずなのに、いつの間にか前の環境より悪化しているように見える。ヒスは急にいなくなる事は何度もあったが、すぐに帰ってきていた。そんな彼が一行に帰ってこない。何かに巻き込まれたのかもしれない、と心配している自分がいるが、頭を冷やそうとしている自分もいる。まるで二重人格のようだ。
「何処に行ったんだ?」
車を走らせ、探し続ける。喫茶店にも顔を出したか聞いてみたが、来ていないと言われた。コンビニにも向かったが、ヒスの形跡は残っていない。まるで最初からいなかったように、消えてしまった。私に弟がいた事自体が夢だったのかとも考えたが、そんな訳はない。一緒に暮らしていたんだ。
「どうしました?」
そんな私の様子を車の中から見つめていた男性が車を降りて、こちらへと向かってきた。私は身構えたが、彼は愛想を振りまきながら、紳士的に対応してくる。勿論知らない人だ、正直、レイカとの出会いが出会いだったから、固まってしまう。
「そんなに警戒しないで……と言っても、無理かな?」
「急に声をかけられたので、驚いただけです」
「それならいいんだけど、誰かを探しているようだったから、気になっちゃってさ」
「……」
「言いたくないのなら言わなくていいよ。でも僕なら君の力になれるんじゃないかって思ってさ」
この男はなんなのだ? 初対面の癖に力になれるとかほざく。一人でどうにか出来る事じゃないのは分かっている。弟がいなくなったなんて、私は土地勘もないのだから。先ほど、訪れた所しか検討がつかない。
「くすっ、凄い焦りようだね、てか、まだ気づかないの?」
「初対面なのに失礼ですね」
「ん? 初対面じゃないよ。俺の事忘れた?」
こんな見た目のチャラそうな奴、知る訳ない。私はどっと疲れが出てきて少し眩暈がした。こんな奴を相手にする時間も無駄だ。もしかしたら入れ違いになっているかもしれないと思いスマホを取り出した。
「探し人は帰ってないと思うよ?」
「……は」
「弟さんを探しているんだろう?」