隠しスイッチ
ピッとカードキーが認証をした音がする。彼は何の迷いもなく中へと進んで行った。薄暗い中で見えるのはどこかの廃工場の見た目をしている風景が目に入ってくる。侵入したのがバレたとしたら誰かが来るはずだろう、そう考えながらも慎重に行動していく。スマホのライトでは光が大きい。こんな時の為にライトがついている時計にしておいてよかったと安心しながらゴウゴウと音のする方へと進んで行った。時計は懐中時計のように蓋があり、すこから淡い光が出る設計となっている。その光を辿りながら、辺りの状況を把握する事にした。
360回転で見回っていると古そうな机を見つけた。彼は何か手がかりがないかと思いながら、机へと近づいていく。何度もこういう状況を経験しているような手際だ。生活の中でこんな事に遭遇する事などないだろうが、彼からしたらこれが日常だった。指で机を撫でると、埃が絡みついてくる。長年使用した形跡がないと思っていたその時だった。机の端っこの違和感を感じて、ライトを照らす。すると、誰かの指の跡らしき、誰かが触れた形跡が残っていたのだ。彼は吸い込まれるように、その部分に人差し指で確認してみる。違和感は触っている形跡だけではなかった。指のサイズに合わされたようなスイッチが姿を現したのだから。
私なら怖気づいてしまうだろう。押して何かが起こった時対処のしようがないからだ。だが、彼は違った。このような薄暗い中でしかも机の端に隠しているもの、それが何を示すのか大体検討がついていたからだろう。躊躇う事なく、スイッチを押すと、横の床が天井へと向かい伸びていく。普通なら下から階段が現れるとかならありそうだが、天井とリンクしているとは思わない。ここが地下と言う事を把握しているから、もしかしたらのほんの少しの可能性をたたき出したのだろう。
軋む音がするかと思うが、無音。ほんの数秒待つと天井から入口が出てきて、手招きをしている。まるでおいでと言っているようだ。彼は新しい遊びをしているような感覚に陥った。まだ一階で探索する場所はあるが、二階への道を見つけたのだから。大胆になっていく。それを楽しそうに見ている者達がいるのも知らずに。
この地下には普通の監視カメラは使用していない。壁と一体型になっていて、はたから見たら気づかれないように工夫している。そこにまだ気づいていない彼は何を考えているのか、私には分からない。ただ分かる事は、彼が楽しみ始めたと言う事実だけだ。