コーヒーブレイク
この事はヒスには言わない方がいいと思い、隠す事にした。色々、文句を言われる可能性もあるが、レイカが起きればまた変わるだろう。蒼生は自販機で飲み物を買いにいっている。別室にヒスとレイカがいるが、どんな顔で話したらいいのか分からずに、この部屋に留まっている。
──ガチャ
ドアの開く音がした。蒼生が帰ってきたようだ。私は、ふうと息を整えると、椅子に座った。何事もなかったかのように、ソワソワしてたと知られたら茶化されるのが目に見えているからだ。
「ただいま、コーヒー買ってきたわよ、ブラックでいい?」
「ありがとう」
「色々見すぎたでしょうから、少し頭を休ませないと、ね」
「そうだな」
カコッとプルタブを開けると、喉にゆっくりと流し込む。程よい苦みが疲れた脳を休息へと向かわしてくれる。この雰囲気だけで落ち着く、やはりコーヒーに依存しているのかもな。嫌な事や考え事をする時、だいたい飲んでいるから。
「何故あれを私に見せた?」
「ん?」
紅茶を飲みながら、蒼生は視線をこちらに向けた。
「これも縁でしょ、手伝ってもらえないかなと思ってね」
「縁? 仕組んどいてよく言う」
「ふふっ、バレてたんだ」
「タイミングと用意が良すぎる」
「さすが蒼生ね」
機嫌よく言うと、飲んでいた紅茶を置いて、煙草を取り出す。蒼生が煙草を吸うなんて、今まで見た事がなかった。その姿がなんだか似合っていて、一緒にいる空間に馴染んでた。同じ空間で過ごす事など、この年になって滅多になくなった。だからこそ、懐かしさを感じたのかもしれない。
「蒼でいい」
「え?」
「同姓同名なんだ、私の事は蒼と呼べばいい。ヒスもそう呼んでいた」
「そう、なら蒼。私と組む気ない?」
「……考えておこう」
少し考えてみたが、今はこの返答がベストだと感じた。内容を聞いていないのに、仲間になるつもりも手伝うつもりもない。まぁ資料を見せたという事は「イシス」に関連する事だろうな。そしてそのキーポイントはレイカの存在だろう。
なんだかんだ言っても、元幼馴染だ。親が意気投合し、親戚である事から同じ名前を付けた。苗字が同じなのに、漢字まで同じ。呼ばれる時に何度も二人、振り返った記憶が蘇る。そのたびに「男」の蒼生とか「女」の蒼生とか、そんなふうに呼ばれていた。
蒼生はお嬢様気質で遠巻きに皆見ていたから、どうしてもそのまま呼ばれる。スキがないというか、皆怖がってた印象しかない。だから余計に、私の事を皆は「蒼」と呼ぶ。蒼生に比べたら、まだ関わりやすいらしいし、その時はまだ温厚だったからな。
「まぁ、あんなもの見せられたら、すぐに返答出来ないわよね」
「分かっているのなら、聞くな」
冷たくあしらったはずなのに、蒼生は楽しそうだ。レイカも寝ているのに心配よりも、この空気を愉しんでいる所が多く感じる。まぁ深刻な顔をしても状況が変化する訳でもないし、発展する訳でもないから、いいのだが……
ジッと見つめてくる蒼生の視線が痛い。
「懐かしいわね」