監視記録
蒼生が何を考えているのか分からない。話をするはずだったのに、無言で何かの資料を渡されてもどうにもできないのに、そんな事を考えながら、封を開け、中身を確認する。
──人体実験№3 レイカ
「イシス」を両手両足と埋め込む事に成功した。
経過を見たのだが、左手と右足は腐食し始めていた。
「イシス」の重圧に体が耐えれなかったようだが、右手と左足は馴染んでいる。
レイカの様子を観察して分かった事だが、副作用に意識混乱と人格分裂があるようだ。
発狂する感覚が短くなってきたので対処の為に唇を縫い付けた。
本当の人格は眠っているようだ。
自分の名前も忘れてしまったので私達は彼女に「レイカ」と名付けた。
私達、研究者達のたわもの「イシス」の子供。
一部の肉体を損傷してしまったが適合者の場合だとクリア出来る可能性がある。
レイカを含め、三人目だが、ようやく成功へと一歩へと近づいた。
自我が飛ぶ時もあるので、その時の行動は要注意だろう。
研究者の私達では止める事が出来ない、だからこそ「イシス」の母の声と薬が必要だ。
──
一枚目は「イシス」を埋め込んだ後の状態が書き込まれている。私は頭が痛くなりそうになりながらも、続きのページを捲った。
──三日目
観察と言う名の監視をするようになって三日目が過ぎた。
レイカは眠ったままだ、昨日の薬の投与が効いているのだろう。
叫び声を出す事も少なくなった。唇を動かそうとしても動かないからだろうか。
特殊な糸で縫っているから専用のはさみがないと動かす事は難しいだろう。
この薬が馴染むまでは人間として生きる事は難しいが、上はまだ諦めてないらしい。
私も研究者の一人として「イシス」の実験を決行した一人だが正直、見ているのがつらい。
私の子供と同じくらいの娘を実験台に選んでしまったのだから。
本当の名前を取り戻そうとする時が来るかもしれない、それまで私達はこの子を人間へと近づかせるつもりだ。
──十日目
毎日投与の効き目が出てきたのか、レイカの精神は安定している。
記憶の改ざんをしてしまったようで、記憶が曖昧のようだ。
自ら記憶を書き換える事も出来るのが「イシス」の副作用という事も明らかになった。
しかし生きる為に必要な食事をとろうとしない。
毎回、用意しているのだが、なかなか見ようとも興味を示そうともしない。
レイカ専属の保護者に九条様、監視役に岬様が選ばれた。
これ以上、私達は成果を見る事が出来ない。
自分の生活が大切だ、これ以上踏み込むのはやめよう。
お二人にも忠告されたのだから……
──
10日分の監視日記を見せられて、絶句した。蒼生が何故こんな事に絡んでいる? 私は吐き気を覚え、嘔吐しそうになった。そんな私の様子など関係ないように、蒼生が話かけてくる。
「読んだかしら。残酷な内容でしょう? 私も見た瞬間、驚いたわ」
「……知っていたのか」
「読む前は知らなかったわよ。後で聞いたの」
「……お前はどう思った?」
「狂っていると思ったわ、でもね、これを望んだのもレイカなのよ」
「どういう事だ」
蒼生は溜息をつきながら、口を噤んだ。ここまで見せておいて、そこは言えないのかよ。だったらこんなもの見せるなと思う。だが、真実を知りたいと言っていた私の要望に応えたのだろう、どんなエグい内容だろうと。
「知りたいと言ったのは貴方よ、蒼生」
自分と同姓同名だから同じ名を言いたくないと言っていたのに、こういう時に限って真剣眼差しで私の名前を呼ぶ。私はヒスには見せない方がいいと思い、さっさと資料を封筒に戻し、蒼生に戻した。