固執
「レイカは?」
「寝てる、薬が効いているみたいだな」
「なら安心ね」
蒼生は胸を撫でおろすと、ヒスが攻撃をしかけた。
「あんたさ、何してんの? 変な薬打って、このまま起きなかったらどう責任取るつもり?」
「私には名前があるの、蒼生って呼んでくれたらいいわ」
「話をずらすなよ、どうすんだよ」
「……ヒス落ち着けって」
「兄さんも兄さんだ、何でそんなに冷静なんだよ」
「じゃあ反対に聞くが、どうしてそんなに感情的なんだ?」
「それは……」
反対に質問されると思っていなかったみたいで、口をパクパクしている。その姿を見るとまるで魚が息をしているようなイメージが沸いてきた。蒼生も私と同じ事を考えていたようだ。くすっ、と手を抑えて笑うと、コホンと咳をし、話を元に戻していく。
「鎮静剤入りの薬よ。「イシス」の副作用を止める効能もついてる、安心して。一時間もすれば起きるわ」
一応保護者なのだ、蒼生がそういうのだから信じるほかにない。ヒスはたまらない表情で、口をつぐむと、私に視線で合図をする。ヒスらしくないのは事実だ、自分が冷静になれてない事に自覚をやっとしたらしい。だから話を私が代わりに聞けという事なのだろう。
「ヒスはレイカの様子を見ておいで、心配だろう?」
「……そうする」
「寝てるからって変な事考えちゃダメよ」
「うるさい女だな」
からかっているのか、本当にそう思っているのか分からないような口調で急かす蒼生の言葉に今は乗るのが賢明だろう。私がレイカを見てくるようにと助け船を出したからいいものの、じゃなかったらどうするつもりだったんだ?
パタンとドアが閉まる音とヒスの姿が奥へと消えていく。何かバツが悪い事でも言われたのだろうか。変に焦っていたな。初対面の女なのに、何故あそこまで固執するのか分からない。蒼生にはヒスがどうして固執するのか分かっているように見える。
「ヒスはどうしてレイカに固執をしているんだ?」
素直に疑問をぶつけてみた。足音が遠ざかるのを確認してから呟いてみる。その答えが返ってくるのかは、分からないが、心の声がポロッと口に出てしまった感覚。自分でもよく分からない。
「誰かと重ねているような感じはするけどね」
「お前、何か知っているのか?」
「どうかしら」
蒼生が何を考えているのかよく分からない中で、一つの資料を手渡しされた。私は不振がりながら蒼生を見つめると、にんまりした顔で「読んでごらん」と急かした。